• 高等研ライブラリー
  • 高等研報告書
  • アーカイブ
  • 寄付

第86回 けいはんな「ゲーテの会」

開催概要

「新しい文明」の萌芽を探る日本と世界の歴史の転換点で、転轍機を動かした「先覚者」の事跡をたどる

86

科学・技術

フロイトと並ぶ深層心理学の開拓者「ユング」

【講演者】
森谷 寛之京都文教大学名誉教授
【講演者経歴】
1947年岡山県生。京都大学大学院工学研究科修士課程修了。同大学院教育学研究科博士課程でユング派分析家河合隼雄に学ぶ。工学修士,教育学博士,臨床心理士,公認心理師。愛知医科大学助教授,鳴門教育大学教授,京都文教大学名誉教授。現在,京都コラージュ療法研究所で心理相談活動。コラージュ療法学会理事長,元京都府臨床心理士会会長。教育心理学会城戸奨励賞,芸術療法学会賞。『コラージュ療法実践の手引き』,『臨床心理学への招待』(各単著)。『ユング心理学概説1』(共訳)。
【講演要旨】
 心理学は自分の精神と直接関係するもっとも身近な学問でありながら,その成立は非常に遅れた。16,17世紀に由来する近代諸科学(物理学,解剖学,化学,生物学など)の誕生後,ようやく19世紀後半から20世紀になって登場する。人類には盲点となる難問で,誤解されることが多い。その成立にはフロイトやユングの功績が多大である。日本への紹介も遅れ,ようやく臨床心理士(1988/民間資格)や公認心理師(2018/国家資格)という<新しい職種>が生まれた。本会では2020年8月にまずフロイトが取り上げられた。
 最初に心理学(実験心理学・臨床心理学)とは何か,他諸科学との視点,発想の本質的な違いを説明し,位置づける。そしてフロイトと対比しながらユングの果たした役割を解説する。ユングはフロイト以上に無意識の世界を重視した。ユングの「内向-外向」はすでに日常語となっているが,その真意は十分理解されていない。広範な分野に影響を与え続けているその業績紹介はまだ途上にあるといえる。
開催日時
2021年6月25日(金)18:00~20:00
開催場所

【重要なお知らせ】今回はオンライン開催のみとなります。

住所
今回はオンラインのみ
参加費
今回は無料
定員
40名(先着順・定員になり次第締め切り)
締切
2021年6月24日(木)必着

当日の様子

2021年6月25日(金)、国際高等研究所主催の第86回「満月の夜開くけいはんな哲学カフェ「ゲーテの会」が、ZOOMウエビナー機能を活用し、リモートで開催されました。テーマは『フロイトと並ぶ深層心理学の開拓者「ユング」』。講師は森谷寛之先生(京都文教大学名誉教授)。全国から定員を大幅に越えるオンライン参加がありました。

16、17世紀に物理学や近代医学(解剖学)、18世紀後半に化学、19世紀に生物学(進化論)が生まれた。心理学は近代諸科学の殿(しんがり)に、先行諸科学の成果を取り入れることで19世紀後半から20世紀に成立した。人類にとって一番身近な分野の発見が一番遅れた。難題であった所以である。

心理学には、二つの系譜がある。最初は19世紀半ばに物理学者の手によって「精神物理(実験心理学)」が、さらに約半世紀後にノイローゼ治療法として医師フロイトの手によって「精神分析(臨床心理学)」への道が拓かれた。両者は水と油のようであるが、相補的関係にある。

フロイトは「無意識的な心的過程が存在するという仮定を立てることによって世界の学問にとってまったく新しい方向づけが可能となったと断言する」とまで言う。それは、意識中心の考えを根本的に変える、精神世界におけるコペルニクス的転回であった。

この無意識へのアプローチは、例えば、聖人の教え(孔子)から、外界の観察(ガリレオ「月観測」)から、あるいは無心(鑑真「瞑想」)からではなく、当の本人自身の言葉の遣り取り(フロイト「自由連想法」)によってなされるとの解説が、解剖学講義の図などとフロイトの面接室(寝椅子)の図を比較対照しながら行われた。

また、「無意識」の概念は、不登校事象を例に取れば「学校へ行きたい(意識)が、なぜか行くことができない(無意識)」現象である。この現象は、心の動きを矢印で「向きと大きさ(ベクトル)」、「見える力(意識)と見えない力(無意識)」の4要素で視覚的に表現できるとされた。

最後に、ユングはフロイト以上に夢を重視し,その理論は夢を根拠にしている。ユングの『自伝』には彼の生涯の夢が記録されており、ユニークな自伝であるとの紹介があった。また、質疑応答では、心身相関、個人と社会の関連、また、ユングのタイプ論、普遍的無意識などが取り上げられ、興味深い意見交換が続きました。(文責:国際高等研究所)

最新に戻る