第97回 けいはんな「ゲーテの会」
開催概要
「新しい文明」の萌芽を探る日本と世界の歴史の転換点で、転轍機を動かした「先覚者」の事跡をたどる
第97回
政治・経済日本経済の「失敗の本質」 ―「折衷型」資本主義の行方
- 【講演者】
- 前田 裕之学習院大学客員研究員
川村学園女子大学非常勤講師
文筆家
- 【講演者経歴】
- 【経歴】
1962年神奈川県横浜市生まれ
1986年、東京大学経済学部卒業後、日本経済新聞社に記者職で入社
東京経済部、大阪経済部(記者、キャップ、デスク)、経済解説部(編集委員)などを経て2021年、独立
【著書】
『経済学の壁-教科書の「前提」を問う』
『データにのまれる経済学-薄れゆく理論信仰』
『景気はなぜ実感しにくいのか』
共著に『経済学の宇宙』(岩井克人著/聞き手)
『「失敗の本質」を語る-なぜ戦史に学ぶのか』(野中郁次郎著/聞き手)など
- 【講演要旨】
- 日本経済は30年以上に及ぶ「長期停滞」に陥っています。日本政府や日本企業はどこで道を踏み外したのでしょうか。この講演では、バブル崩壊後に日本政府が打ち出した経済政策や、日本企業の行動を追いつつ、政府や企業は無意識のうちに「資本主義経済はこうあるべきだ」という共通認識や思想(私は「経済学の思考法」と呼んでいます)にとらわれているのではないかとの見方を示します。私はそこに日本の「失敗の本質」があるとみており、そうした思考法から脱出するためにはどうすればよいのか、ささやかなヒントを提示したいと思います。
- 開催日時
- 2026年3月12日(木)18:00~20:00
- 開催場所
- 公益財団法人国際高等研究所
- 住所
- 〒619-0225 京都府木津川市木津川台9丁目3番地
- 参加費
- 今回は無料
- 定員
- オンライン 100名 会場参加40名(先着順・定員になり次第締め切り)
- 締切
- 2026年3月10日(火)必着
当日の様子
2026年3月12日(木)午後6時から国際高等研究所主催による第97回「満月の夜開くけいはんな哲学カフェ『ゲーテの会』」が高等研のコミュニティホールで開催されました。講師として前田裕之先生(元日本経済新聞社記者・編集委員、学習院大学客員研究員)をお招きし、「日本経済の『失敗の本質』-『折衷型』資本主義の行方」の演題の下にご講演いただきました。
本「ゲーテの会」は、2022年度から開始している〈「新たな」文明の萌芽、探求を!〉プロジェクトの一環として開催しているもので、昨年度の「生命論」に引き続き、本年度は「資本論」を共通テーマに、昨年来「資本主義と倫理」また「資本主義の未来を探究する」などをモチーフに、専門家とともに広く市民の参画を得て議論を重ねて来ましたが、それを受けてのものでした。
ご講演では、戦後の日本経済の浮沈(経済成長と長期停滞)の要因が、敗戦を余儀なくされた旧日本軍の組織体質と良くも悪くも相似形である、との説明が野中郁次郎ほか著『失敗の本質』ダイヤモンド社(1984年)で分析された旧日本軍の組織論的弱点(①不明確なグランドデザイン、②短期決戦重視型の志向、③「空気」に支配された組織運営、④場当たり的対応)を引き合いに行われました。
日本経済の成長期(1950年代から1980年代)・欧米へのキャッチアップ期においては、旧日本軍の弱点とされた組織体質はプラスに作用し、あるいは人口増大もあって顕在化することなく、ジャパン・アズ・ナンバーワンの評価を日本経済は得た。だが、キャッチアップ後、目標を見失った日本経済は、かの旧日本軍の組織的弱点がそのままマイナスに作用し、長期停滞に陥ることとなった。そこには環境(成功体験)への過剰適応もあったのではないか。
そうした体質は、日本の政官界、産業界ともに未だ克服できていない。弱点としての旧日本軍の組織体質を超える方途として、野中郁次郎氏の提唱する「暗黙知」と「形式知」との相互関係を整序した「知識創造論」(「共同化・表出化・連結化・内面化(SECIモデル)」)の紹介とともに、旧日本軍と対照的な組織として「アメリカ海兵隊」を知識創造組織の例として挙げ、組織論的には企業経営としてもマイルストーンになるのではないかとの説明。ただ、日本にも知識創造経営の先駆的企業があるとして、当時の富士ゼロックス、キャノン、ホンダなどを紹介。
戦後の我が国の経済政策に関連して、現代の経済理論の二大潮流として「新古典派経済学」と「ケインズ経済学」がある。前者は個人の自立を求める「小さな政府」を、後者は財政支出を求める「大きな政府」を指向するもの。歴代の日本政府の動向を見ると、この二大潮流に基づく経済政策を混交しつつ、「折衷型」とも言うべき施策が展開されている。時宜を得た両刀使いは必要であるが、政権浮揚のために頻繁に繰り返される「ケインズ経済学」的「緊急経済対策」依存は最早限界ではないか。
これからは、これまで経済学が対象として来なかった「幸福」概念などを軸に「アンペイドワーク」、「コミュニティ」などの概念を取り込んだ経済のあり方にも目を向けるべきではないか。また、「三方よし」などの日本的経済倫理も注目すべきである。ただし、かつての「近代の超克」的独善に陥らないよう今こそその普遍性を掲げてグローバル資本主義に一石を投じるべきだとの思いがある。
質疑応答では、「失われた30年」と否定的側面が強調されているが、その間、肯定的事象もあったのではないか。「三方よし」は倫理的側面とともに経済効果的側面についても議論されるべきではないか。株主優遇至上主義の行き過ぎたコーポレートガバナンスの問題、また、「幸福」に関して、伝統的な経済学上の効用(快適性)概念に優る価値としてアリストテレスが提唱した精神的満足(最高善)、それを如何に経済論議の対象とすべきかなど、多様な意見交換がなされ、参加者それぞれに強い知的刺激を覚える会合となりました。(文責:高等研事務局)
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前田裕之先生 -

講演会場風景 -

質疑応答の様子




