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第70回 けいはんな「ゲーテの会」

開催概要

「新しい文明」の萌芽を探る日本と世界の歴史の転換点で、転轍機を動かした「先覚者」の事跡をたどる

70

思想・文学

「もののあはれ」こそ日本人の心性。「漢意」に異を唱える「本居宣長」

【講演者】
田中 康二皇學館大學文学部教授
【講演者経歴】
1965年大阪市生まれ。神戸大学文学部卒業。同大学院文化学研究科文化構造専攻退学。博士(文学)。富士フェニックス短期大学専任講師・助教授、神戸大学文学部助教授、同大学院人文学研究科教授を経て、2018年皇學館大学文学部教授。2001年第27回日本古典文学会賞(財団法人日本古典文学会)受賞。
著書に、『村田春海の研究』『江戸派の研究』(以上、汲古書院)、『本居宣長の思考法』『本居宣長の大東亜戦争』『本居宣長の国文学』(以上、ぺりかん社、宣長論三部作)、『国学史再考―のぞきからくり本居宣長』(新典社選書)『本居宣長―文学と思想の巨人』『真淵と宣長―「松坂の一夜」の史実と真実』(以上、中央公論新社、宣長伝三部作)など。
【講演要旨】
本居宣長とは何者か。日本古典文学の研究を大成した先達であると同時に、実証的に日本の優位性を主張した初めての日本人でもある。前者は国文学者の顔であり、後者は思想家の顔である。宣長は二つの顔を持つヤヌス(双面神)であった。それゆえ、どちらか一方だけを見ると、その実像をとらえ損なってしまう。評論家はそれに「宣長問題」というレッテルを貼って神棚に上げてしまった。
 そこで、本講演では宣長の書いた文章に即して、国文学者としてのプロフィールを「もののあはれを知る」説を通じてとらえ、思想家としてのプロフィールを「漢意」を通して考えてみたい。いずれも宣長学を考える上で必要欠くべからざるキーワードであるにもかかわらず、かならずしも正しい理解が行きわたっているわけではない。グローバル(国際化)が合言葉である21世紀こそ、宣長の提唱した「もののあはれを知る」説を正しく理解、運用し、排他的ではない「漢意」排斥の精神を習得する必要があるということを確認したい。

【参考図書】ご講演の内容の理解を促進するために次の図書が有益です。
田中康二『本居宣長-文学と思想の巨人』(中公新書、2014年)

どなたでもご参加いただけます。ぜひ、お誘いあわせの上ご参加ください。
開催日時
2019年4月19日(金)18:00~20:30
開催場所
公益財団法人国際高等研究所
住所
〒619-0225 京都府木津川市木津川台9丁目3番地
参加費
2,000円(交流・懇談会費用を含む)
定員
40名(申し込みが定員を超えた場合は抽選)
締切
2019年4月18日(木)必着

当日の様子

2019(平成31)年4月19日(金)18時から国際高等研究所において、第70回満月の夜開くけいはんな哲学カフェ「ゲーテの会」が開催されました。テーマは、『「もののあはれ」こそ日本人の心性。「漢意」に異を唱える「本居宣長」』。講師は田中康二先生(皇學館大学文学部教授)

本居宣長72年の生涯(1730~1801)の中、34歳の時、1763(宝暦13)年は奇跡の年と言われている。その年、生涯の師・賀茂真淵と出会い、『古事記』に関心を寄せることとなり、また、後、日本語活用の研究者として大成した実子・春庭の誕生。更に『古事記伝』と並ぶ畢生の代表作『紫文要領』を著述。

講演では、源氏物語の注釈書『紫文要領』の記述を辿りながら、「もののあはれを知る」説を解説。宣長は、文学を勧善懲悪的な政治的・道徳的目的から独立したものとして捉え、芸術至上主義的観点から論じた。その核心は、人情であり、思い遣りの心であり、共感する力である。特筆すべきは、宣長はその中で、人の認識のメカニズム(知覚・感覚器官→認識・脳→感動・心)を世界に先駆けること150年、独自に解明。これは日本の誇るべき業績であるとの指摘。
また、『玉勝間』(1793(寛政5)年起筆)の記述を辿りながら、「漢意」いわゆる「外国かぶれ」を克服するには、まさに「皇國だましひ」いわゆる「大和魂」を自らに整えてこそ克服できる。グローバリズムの波が席巻する今、それは喫緊の課題であるとの指摘。

質疑応答では、国学には二つの側面がある。「歌の学」と「道の学」である。治世(江戸時代等)には前者が、乱世(太平洋戦争時等)には後者が一面的に取り上げられ、特に後者の場合、曲解され、都合よく政治利用された歴史がある。また、日本人の心性とされる「もののあはれ」を涵養するには、例えば、文学作品を観賞するに当たって、物語の主人公に感情移入して味わうことが有益であるなど、興味深い応答が続きました。(文責:国際高等研究所)

  • 講演の様子
  • 質疑応答の様子
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