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2022年夏季IIAS塾ジュニアセミナー

当日の様子

8月2(火)、3日(水)、4日(木)の3日間の日程で、ハイブリッド方式(対面・遠隔)により開催されました。 今回は、コロナ禍を考慮し、セミナー会場(高等研)と宿泊会場(ホテル)を分離し、3年ぶりに対面方式を復活させての開催となりました。
学習テーマは春季と同様、「人物学習型」とし、「九鬼周造」「吉野作造」「司馬江漢」を取り上げ、「文化」創造を中心モチーフとして学びました。受講者数は26名。また参加校は、14校中6校が新規校で、その地域も、新たに福岡、宮崎、愛媛からの参加もあり、これまでの京都、大阪、奈良、兵庫などに加え、地域的拡大が更に進みました。

第1日目、オリエンテーションの後、受講生の自己紹介、TA11名の自己紹介に続き開講式を行いました。IIAS塾ジュニアセミナー開催委員会委員長松本紘先生(国際高等研究所所長)から「多感な高校生時代に多様な学びの機会に恵まれることは幸福なことである。国際高等研究所のモットーの一つにbeyond boundaries(境界を超えるとの意味)がある。学問、技術など、その境界を越えて広い視野をもって学ぶことが重要である。」などの挨拶がありました。
そして午後からは、ティーティングアシスタント(TA)の研究紹介。次いで、受講生から予め寄せられた質問へ各講師から応答いただきました。
第1日目の最後は、グループに分かれの意見交換。翌日のグループ討議に向けての論点整理など意欲的な意見交換が行われました。その後、各受講生は宿泊会場(けいはんなプラザホテル)に場所を移し、夕食。その後、TAを交えて、午後9時過ぎまで、自由に懇談・交流。課外活動、進学・進路などへの話題も飛び交い、活発な交流・懇談の時間を持ちました。

第2日目、宿泊先のホテルから会場に移動。午前9時から思想・文学分野のグループ討議が行われ、午後からは政治・経済分野、科学・技術分野のグループ討議が続きました。いずれの分野でも白熱した議論が交わされました。
夕食後は、本日の各分野のグループ討議結果を踏まえて、翌日の全体討議に向けての報告内容の整理を、TAの指導の下に行い、またグループを越えて懇談。TAが相互に情報交換を行うなど交流を深めました。

第3日目、午前中は全体討議。この全体討議では、前日の各グループで討議してきた内容を、グループ間で共有し、意見交換するもので、当初の5グループを2グループに再編し、討議。午後の各受講生のレポート報告を控えて、それぞれの考えを整理。
午後は、TAの司会の下で、セミナーに参加して学んだことなどを、受講生一人ひとり、グループ単位に発表。異口同音に、多様な意見に触れる機会を得て、新たな学びへの意欲を掻き立てられた、また思考の幅が広がったなどの報告がありました。その中で、何かを実行するための討議とは異なり、抽象的課題を討議することの楽しさを覚えた。「美」の、あるいは「歴史」の客観性と主観性について考えさせられた。「文化としての科学」論は、科学嫌いを科学好きにする転轍機でもある、など特徴的ものがありました。また、TAからも、ディベートは相手の意見を変えさせるもの、対話は自分の意見を変えるもの。対話的学びを継続して欲しいなどのコメントもあり、充実した三日間の感想が、各人からありました。

最後に、3人の講師(藤田正勝・奈良岡聰智・池内了先生)から講評をいただきました。受講生の学びに対する積極的姿勢を大いに評価しつつ、藤田先生から「欲望の時代」にあって、「物」そのものに執着するのでなく、それを存在たらしめている意味や価値を見出していくことが重要。奈良岡先生から「勝者が歴史を作り、敗者は文学を作る」との言説があるが、反面、今、国際政治の倫理化の動きが新しい。外国語にも習熟し、国内に留まらず世界に目を向け、新たな視野を獲得してほしい。池内先生から、もう一つの科学観として「文化としての科学」の視点を持ってほしい。科学技術の進歩は避けられないが、成長一辺倒でなく「拒否する勇気」も必要である。「自由で創造的な科学」の追求こそが今求められている、など様々な示唆的な言葉をいただきました。また、今回の「IIAS塾ジュニアセミナー」を契機として、今後とも「答えのない課題」を追究し続けてほしいとの励ましの言葉をいただきました。
閉講に当たって、IIAS塾ジュニアセミナー開催委員会委員長松本紘先生(国際高等研究所所長)から受講生に「受講証」の交付が行われ、その後、閉講の挨拶。主体的学びを続け、全人的成長を期待するとして、次の餞の言葉が贈られました。四つの「がく」が大切である。学力(考える力)、額力(思いやる力)、顎力(表現する力)、楽力(愉しむ力)。
閉講式の後、松本先生を囲んで、受講生、TAなど参加者全員で集合写真に納まりました。最後に受講生は、三日間にわたる学習プログラムを終え、銘々にグループ写真に納まり、また、今後の学習交流を誓い合い、別れを惜しみながら、会場を後にしました。

  • グループ討議の様子
  • 遠隔による講師との質疑応答の様子
  • グループ討議の様子
  • 全体討議の様子(3日目)
  • レポート報告の様子
  • 集合写真

参加者の声

メンバーがひとつの話題に関して様々な問題点、質問、話す内容の切り口を的確に指摘しているのを見てたくさんの刺激を受けた。
高校2年生女子
直接、教授と意見交換でき、貴重な時間を過ごすことができた。
高校3年生男子
いろんな分野について深く考えたり、議論したりする意欲のある個性豊かな友達やTAさんに出会え、思考の種をたくさん貰えた。
高校1年生女子
夏休みに自主的に参加するセミナーだからこそ、多くの時間をかけて幅広い、深い内容の討議ができた。
高校1年生女子
京阪神を中心に様々な場所から集まった同世代の人と主体的・積極的に交流、議論でき、普段の学生生活では絶対に経験できないような、とても有意義な体験でした。
高校1年生女子

開催概要

講師とテキスト主題

藤田 正勝

京都大学名誉教授
メインテキスト
九鬼周造に学ぶ  ~ 現代に息づく伝統的美意識としての「いき」 ~
サブテキスト
九鬼周造『「いき」の構造』(藤田正勝全注釈)講談社学術文庫 (2003年) 

1949 年生まれ。京都大学大学院文学研究科、ドイツ・ボーフム大学ドクター・コース修了。京都大学大学院文学研究科教授、同大学院総合生存学館教授を経て、現在は京都大学名誉教授。
著書に、Philosophie und Religion beim jungen Hegel(Hegel-Studien, Beiheft 26)、『若きヘーゲル』(創文社)、『西田幾多郎――生きることと哲学』、『哲学のヒント』、『日本の文化をよむ―― 5つのキーワード』(以上は岩波新書)、『はじめての哲学』(岩波ジュニア新書)などがある。

九鬼周造は『「いき」の構造』や『偶然性の問題』、『人間と実存』などの著作で知られる哲学者です。1921年から8年にわたってドイツ・フランスに留学して、1929年に帰国し、京都大学で西洋哲学史を担当しました。当時最先端であったベルクソンやハイデガーなどの哲学を紹介し、日本における実存哲学やフランス哲学の研究の礎を置いた人です。
九鬼には『文芸論』という著作もありますが、芸術や文芸にも深い理解を有した人でした。九鬼自身が「美の世界に生きた人」であったと言えると思います。自ら数多くの短歌や詩を作りましたし、日本の伝統的な音楽、とくに長唄や小唄、清元などを愛してやまない人でした。さらに晩年には京都・山科の地に粋をこらした邸宅を構えたことでも知られます。
そういう関心があったからだと思いますが、江戸時代を代表する美意識とも言うべき「いき(粋)」に深い関心を寄せ、それをめぐって精緻な分析を行い、その構造を鮮やかに描きだしました。本講演では、九鬼の「美」の理解、彼の「美の世界」をテーマにとりあげますが、とくにその「いき」の理解に焦点をあて、「いき」とは何か、九鬼はなぜ「いき」を問題にしたのか、そういった問題について考えて見たいと思います。

奈良岡 聰智

京都大学法学部・法学研究科教授
メインテキスト
吉野作造に学ぶ ~先陣を切る者は、歴史に学び、その光と影を縁(よすが)とする。~
サブテキスト
『日本の名著 (48) 吉野作造』中公バックス(1984年)

1975年青森県生まれ。2011~12年、2015~16年ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス客員研究員。専攻は日本政治外交史。主な研究テーマは大正時代の政党政治、第一次世界大戦期の日本外交など。主著に『加藤高明と政党政治―二大政党制への道』(山川出版社、2006年)、『「八月の砲声」を聞いた日本人―第一次世界大戦と植村尚清「ドイツ幽閉記」』(千倉書房、2013年)、『対華二十一ヵ条要求とは何だったのか―第一次世界大戦と日中対立の原点』(名古屋大学出版会、2016年)、『ハンドブック近代日本外交史 黒船来航から占領期まで』(簑原俊洋と共編著、ミネルヴァ書房、2015年)がある。

吉野作造は、「民本主義」を提唱し、大正デモクラシーをリードした言論人として知られていますが、歴史研究者でもありました。吉野はもともと東京帝国大学法学部で政治史講座を担当し、ヨーロッパや中国の政治を研究していましたが、大正末期になると明治文化研究会を組織し、明治憲政史の研究に力を注ぐようになりました。彼は、わが国における明治史研究の草分けでもあったのです。
実は吉野が明治史研究を始めた背景には、明治を回顧・顕彰しようという全国的な風潮が影響していました。このような動きは、明治天皇の崩御、「明治50年」などを経て、昭和3年の「明治60年」に一つの頂点を迎えました。この年の干支が、戊辰戦争以来の「戊辰」であったことも影響していました。この時期の明治ブームは、形を変えて戦後の「明治100年」「明治150年」にも受け継がれていくことにもなります。
本講演では、吉野の明治史研究を端緒としつつ、これまで節目ごとに明治維新がどのように捉えられ、顕彰されてきたかを検討していきます。2018年は「明治150年」にあたり、さまざまな関連行事が行われてきました。皆さんと一緒に、その意義についても考えてみたいと思います。

池内 了

総合研究大学院大学名誉教授
メインテキスト
司馬江漢に学ぶ ~ 「文化」を創造する好奇心が豊かな人間に! ~
サブテキスト
池内了『なぜ科学を学ぶのか』 ちくまプリマー新書 (2019年)

1944年兵庫県生まれ。京都大学理学部物理学科卒業。同大大学院理学研究科物理学専攻博士課程修了。博士(理学)。『お父さんが話してくれた宇宙の歴史』で産経児童出版文化賞、『科学の考え方・学び方』で講談社出版文化賞科学出版賞、『科学者は、なぜ軍事研究に手を染めてはならないか』で毎日新聞出版文化賞(特別賞)受賞。『物理学と神』『科学・技術と現代社会上・下』『科学者と戦争』『科学者と軍事研究』『なぜ科学を学ぶのか』『寺田寅彦と物理学』など著書多数。

私は、かつて『科学のこれまで 科学のこれから』という短い本を書いた(岩波ブックレット)。これまでの100年の間の科学の「異様な」発達を見ながら、これからの100年先の科学の行き方について書いたもので、そこでは「「文化」としての科学」の典型として博物学を取り上げた。
ゲーテの会で話題にするのは司馬江漢である。彼は日本画の屈指の画家なのだが、日本で最初にエッチングを発明した上に洋画にも手を出し、さらに科学では地動説を唱導し宇宙論へも踏み入っている。当時の天文学は暦学に終始して宇宙の構造には関心がなかったのだが、江漢はまさに博物学的好奇心を発揮して窮理学に、そして天文学に造詣を深めたのである。また、同時代の山片蟠桃は金貸しの番頭でありながら、人間が宇宙のあちこちに生きる宇宙像を展開している。
自分の専門の職業でちゃんとした仕事をした上で、科学の素人でありながら宇宙に関心を持った江漢(や蟠桃)の生き様を振り返りながら、なぜ江戸時代に博物学が隆盛であったのかを考えてみたい。

募集要項

募集対象 国内に所在する高校及び大学の学生で、IIAS塾ジュニアセミナー開催委員会において、受講を認めたもの概ね20名。
応募対象 申込フォーム(Googleフォーム)より必要事項を記載のうえ送信。ただし、高校生にあっては、当該高等学校の教員の推薦及び保護者の同意を得たうえで「推薦書・同意書」を郵送またはE-mailにて送付。いずれも提出締め切りは、2022年6月24日(金)。
受講決定 選考結果は、2022年7月上旬、応募者本人宛て、「申込書」に記載された住所へ郵送により通知。
開催日 2022年8月2日(火)~8月4日(木)
開催場所 公益財団法人国際高等研究所(京都府木津川市)アクセスマップ
宿泊場所 主催者(国際高等研究所)の用意する宿泊施設(ホテル)
参加費用 メインテキスト代、食費を含む宿泊費は主催者が負担。ただし、自宅と会場までの交通費は自己負担。サブテキストは各自で入手。
問い合わせ・申込先 公益財団法人国際高等研究所
IIAS塾ジュニアセミナー開催委員会事務局
〒619-0225 京都府木津川市木津川台9-3
Tel:0774-73-4000/Fax:0774-73-4005
E-mail:iias19-2015@iias.or.jp
URL:http://www.iias.or.jp/
共催、後援、協力 【主催】公益財団法人国際高等研究所(IIAS塾ジュニアセミナー開催委員会)
【後援】京都府・奈良県・滋賀県・和歌山県の各教育委員会(予定)
【協力】京都大学、大阪大学

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