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第18回 けいはんな「エジソンの会」

開催概要

AI、IoT、ビッグデータの進展により医療はどう変わるのか

講師
  • 大江 和彦
    東京大学大学院医学系研究科医療情報学分野教授
  • 西野 均
    日本アイ・ビー・エム株式会社 東京基礎研究所研究開発ビジネス開発部長
開催日時 2018年2月20日(火)13:30~19:30
開催場所 公益財団法人 国際高等研究所
住所 〒619-0225 京都府木津川市木津川台9丁目3番地
概要 AI、IoT、ビッグデータの進展により、我々を取り巻く医療の世界は劇的に進化しています。情報システム基盤を構築し利活用することにより、AIによる病気の傾向把握や診断支援、類似症例患者検索やその可視化、電子カルテからの臨床経過予測、治療方法の共有など、多くの社会的価値を創出することができる可能性が高まってきました。
また、病院から得られる患者の通院に関わる診断データ、診療情報、検査データ、センシング技術 により、24時間取得可能な生体データなどを収集・分析して、患者に健康アドバイスを行ったり、カルテ、レセプト、さらなるビッグデータを収集し、情報を組み合わせて分析すること により、個人ごとにカスタマイズされた投薬、治療を行う医療の提供、さらに地域に偏在しない医療の質の向上が期待されています。

第18回会合では、日本医療情報学会の代表理事であり、医用人工知能研究会の幹事を務められている大江先生より、医療情報データベースの基盤構築に向けた取り組みの最新状況と社会に対する影響や今後の展望についてご説明を頂きます。また、IBMワトソンのエキスパートであり、研究開発部門のヘルスケアの責任者である西野氏には、ワトソンの技術動向と医療分野での活用について、多くの先進事例を交えながらご紹介頂きます。

ビッグデータとAIがもたらすこれからの医療についての先進事例と今後の展望に触れて頂くことによって、AIを中心にした新たなテクノロジーがどのように活かされ、医療をサポートしていくことが出来るのか、新たな医療への取り組みを学ぶことにより、分野を超えた研究者・技術者、企業の様々な立場の皆様にも非常に興味深く、大いに参考にしていただけるものと期待しています。

タイムテーブル

13:00~
受付
13:30~14:50
「ビッグデータとAIがもたらすこれからの医療」大江 和彦 東京大学大学院医学系研究科医療情報学分野教授
15:00~16:20
「医療におけるIBMワトソンの取り組みとWatson Healthの事例」西野 均 日本アイ・ビー・エム株式会社 東京基礎研究所研究開発ビジネス開発部長
16:30-17:50 
インタラクティブ・セッション
18:00~19:30
懇親会
主催者による記録・広報等のため、本イベントの写真撮影・録画・録音、オンライン配信、ソーシャルメディア配信等を行う場合がございますので、予めご了承ください。

当日の様子

けいはんな「エジソンの会」第18回会合は、「AI、IoT、ビッグデータの進展により医療はどう変わるのか」というテーマで開催致しました。
 医療現場で発生する電子カルテ、レセプト情報、特定健診情報などのデータの統合が進むことで、より良い医療や健康管理の実現が可能となり、またIoTの進化により日々の暮らしで得られるライフデータとの組み合わせや、個人のゲノム解析情報との組み合わせで実現可能なパーソナライズした医療についても、今後の展開に非常に期待が持てました。しかし、その一方で個人情報保護の観点から、データの匿名性等の考慮も欠かすことができない状況であり、まだまだ活用には多くのハードルがあると感じました。ご講演頂いた内容は下記の通りです。

「ビッグデータとAIがもたらすこれからの医療」

大江 和彦 東京大学大学院医療情報学教授

ビッグデータとAIの医療を取り巻く動向としては、平成28年に厚労省保健医療分野におけるICT活用推進懇談会において、保険医療2035のビジョンを踏まえて、ICT活用により創出すべき「患者・国民にとっての価値」と、「次世代型保険医療システム」の考え方、構築への方策が提言された。
次世代型保険医療システムは、価値を生み出すデータを「つくる」、分散したデータを「つなげる」(統合する)、囲い込まれたデータを安全にデータ利活用プラットフォームで「ひらく」、の3つのパラダイムで構築し、一人ひとりに寄り添った保健医療を目指している。また、厚労省の医療分野へのAI導入提言懇談会では、AIにより新たな診断・治療方法を創出し、全国どこでも最先端医療を受けられる環境の整備と医療・介護従事者の負担軽減の実現、AIの性能向上による臨床活用で、保健医療の質の向上を目指していくことが提言されている。
現状では、膨大で広範になった医療知識を集めきれない、覚えきれない、利用しきれない、機械的に生成される膨大な医療データを分析しつくせない時代となり、医師は自分のカバーできる範囲を狭めて対応してきた。そこで、先ず電子力ルテシステムとオーダシステムから作成されるレセプトデータと、特定健診等情報からのデータをデータベースに保存し活用を進めているが、レセプトデータは請求処理に利用するため、検査結果等は入っていないものの確実な入力でデータ活用の観点からは品質が高く、電子カルテのデータは医師が登録する際の記載漏れや記載内容の不明点が多く、データ活用の観点からは質が低いという特徴がある。また、電子カルテは医療機関毎にばらばらなデータ形式のシステムを所有していることから、それらを厚生労働省標準規格「SS-MIX2標準ストレージ」に標準化し、匿名化処理を加えて、医療ビッグデータと医用人工知能研究推進のための共通データベース基盤構築を進めている。
AMEDでの研究開発事業としては、匿名化した臨床症例データを一元化したデータベースを構築中であるが、レセプトデータと連携させた解析を来月より始める運びとなった。また、症状データベースを利用した「高速症例解析システム」を東大生産研にて構築し、医師が経験のない病気に対する治療支援サービスを始めている。
 医療情報データベース基礎整備(MID-NET)事業においては、各病院での集計結果を匿名化し、データ処理センターに集めて、医薬品の副作用の頻度や有効性の検討に利用している。学会主導の臨床データベース事業は年々増えており、共通環境として、WebベースのMCDRC(多目的臨床データ登録システム)を利用しており、MCDRCを採用する研究グループも増えつつある。
 パーソナル医療については、健康医療情報の標準化基盤(SS-MIX2)を利用して、パーソナルゲノム情報と臨床情報の統合管理を図り、日々の患者の暮らしの中で得られるライフデータと連携できる標準化インフラの構築を進めている。スマートフォンの活用やセンシング機器とデータ通信を利用して、医療データと健康時のデータから個人毎の健康・病状変化の予測と行動介入に繋げて行くことを目指して活動を進めている。
 AIの医療への応用としては、CNN(Convolutional Neural Network)を用いた画像識別があるが、皮膚科専門医レベルの皮膚がん分類では、デジタル電子顕微鏡画像からの糸球体の識別研究を行っている。医療画像データ以外への機械学習・深層学習の活用としては、 正解ラベルとその特徴量を含む大量のデータがあれば、胸部X線写真診断所見、精神疾患診断、心電図診断、治療効果の評価分類、薬剤副作用所見、疾病の重症化の有無、患者の外来受診中断の有無、など様々な領域に適用できる可能性が高い。また、今後はマルチモーダルな医療診断にも活用できると思われるが、今のところ、医療用AIは正解知識とリンクした医療データに頼っており、今後は教師なしデータの活用が期待されるところである。 
医療AIを発展させるために、AI活用懇談会で取り上げられた課題としては、文章の多い電子カルテからの情報抽出は自然言語処理技術によるところが大きく、日常の診療レベルで利用できるようにデータをどのように作っておくべきか、またAI開発に必要な人材を医療界と理工系の両方でどのように育成していけば良いのか、さらに出所不明のデータで学習した医療機器の安全性や性能評価をどのように行い、売り出した後に新しい学習データで学習した医療機器の有効性や安全性をどう評価するべきか、などの問題を取り上げている。
医療ではブラックボックス的な発想は、患者は納得できないので、AIも考え方や診断理由を説明できる能力が求められるであろう。
色々なところからくるデータを標準化して使えるようにし、識別が可能なものは個人に役立て、匿名化したデータは二次利用として提供していくことで、医療、健康管理のさらなる発展に寄与して行きたい。

「医療におけるIBMワトソンの取り組みとWatson Healthの事例」

西野 均 日本アイ・ビー・エム株式会社 東京基礎研究所研究開発ビジネス開発部長

IBM Watsonが2011年に全米のクイズ番組ジョパディーで優勝してから7年が経過した。Watsonは、これまでの定義されたルールに沿った動き(Program)で、 すべてのユーザーに同じアウトプットを提供するProgrammatic Systemsではなく、センサデータや非構造データを理解し、経験をベースに学習と改善を繰り返す個々人に合わせた連携と拡張が可能な「Cognitive Systems」であり、様々な情報システムにインサイトを提供する新しいコンピューティング・エリアと考えている。クイズ番組では、問われている質問や問題を解析し、回答候補を探索して、回答候補の評価・ランキングを行った上で回答を行うが、そのために非構造化データの理解と知識ベースの構築が必要であり、推論と判断のための機械学習モデルの生成を行っている。機械学習の世界では、教師あり学習、教師なし学習、強化学習があるが、2014年に米国で発表された機械学習を用いた画像解析による皮膚ガンの早期発見技術が注目を浴びた。皮膚ガンの前段階のメラノーマの発見について、人間の精度が75%~84%に対し、Watsonは95%で、実用化すれば医師の熟練度に左右されず検出が可能となり、更に大量の画像を学習することで継続的な精度の向上が期待される。
Watsonの実用的な適用は米国のヘルスケア分野から始まり、医療データの爆発的増加、医師・関係者不足、医薬画像の増大、高年齢化など、AIが取り組み解決して行くべき課題が多く存在している。そこで、IBMのヘルスケア部門では、2011年のCURAM買収以降、戦略的に企業買収を実施し、それぞれの企業が保持する大量の患者のデータを利活用することによって、IBM Watson Healthのビジネスの推進と拡大を図っている。
Watsonのオンコロジーでの利用としては、米国MSK(Memorial Sloan Kettering)がんセンターの医師の経験やガイドラインから治療の候補を提示するシステムを構築し、2014年にタイ、その後インド、中国、韓国、米国への展開を図ってきた。
ゲノム解析では、腫瘍の分子プロファイリングから論文などを検索し、関係性のある処置や薬をさがす部分で活用している。
Clinical Trial Matchingでは、治験の情報と患者の医療レコードを解析し、可能な治験の候補を選び、治験を実行管理する支援を行う。
製薬向けでは、新しい新薬のターゲットや追加の効能などをデータのモデル化と視覚化で探し、製薬における新材料の発見に寄与している。
医療画像では、現在は過去の構造化、非構造化データを解析することにより可能性のある問題を提示することにフォーカスしているが、今後は、関連する患者データの医師への提供を予定しており、最終的には、医療ディシジョンをサポートするCare Advisorの役割に繋げて行きたいと考えている。
個々に発生するデータの統合を図るため、米国では「Watson Platform for Health」と呼ぶクラウドベースプラットフォームを構築しており、ビックデータからの新しい知見を使い、イノベーティブなソリューションを可能にする包括的な基盤を提供している。
日本での事例としては、スマートフォンを利用したMedtronicでの糖尿病患者の管理として、食事の履歴や過去の行動を学習して、個人に対し血糖の推論、患者への動機づけ、行動パターンのグラフ化などを行っている。また、藤田保健衛生大学において糖尿病患者の合併症予測にも取り組んでいる。糖尿病患者と健常者それぞれ6万5000人の電子カルテを対象に、日本人の生活習慣等を踏まえた2型糖尿病悪化の予測モデルを構築した。匿名化された電子カルテデータとMEDLINEの文献を解析し、今後予測モデルのさらなる向上を目指している。
ヨーロッパでは救急医療現場でのコホートの見える化に取り組んでいる。外傷患者の医療パスウェイのビジュアル化を行うことにより、医師に過去の治療からインサイトを得るための最適なツールを提供している。
 日本の現状では糖尿病と循環器系の患者が多いので、データが豊富で比較的フォーカスされ易い状態にはなっているが、今後全国の大学病院から得られたデータに基づいて、少ない症例の病気でもデータによる解析が可能になってくると思われる。

[インタラクティブ・セッション]

医療分野と情報分野のさらなる融合の必要性、今後医師に求められ役割やスキル、電子カルテデータと自然言語処理、患者のデータ利用と同意形成、AIに掛かるコスト、医師のスキルと医療制度、予防医学の必要性、医療データ共有の世界的な動きなど、活発な議論が交わされました。


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