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第11回 けいはんな「エジソンの会」

開催概要

アフェクティブ・コンピューティングについて

講師
  • 渡邊 克巳
    早稲田大学 理工学術院基幹理工学部表現工学科 教授
  • 池谷 浩二
    株式会社シーエーシー 取締役 業務担当執行役員
    イノベーションカンパニー長
  • 下地 貴明
    スマートメディカル株式会社 取締役ICT事業本部長
開催日時 2017年6月21日(水) 13:30~19:30
開催場所 公益財団法人 国際高等研究所
住所 〒619-0225 京都府木津川市木津川台9丁目3番地
概要  アフェクティブ・コンピューティングは、人間の感情的要素に着目し、豊かな表現力を持ち、人間に適応する新たなインタフェースを創出するものです。アフェクティブ・コンピューティングによって、AIを搭載したロボットやシステムが、人間の感情を検知するだけでなく、人間に近い頭脳を実現し、人間の感情を理解し、それに応じて適切な対応ができるようになり、さらにその先においては、機械自身が感情を持つ世界の実現も期待されています。

第11回会合では、アフェクティブ・コンピューティングの実現に向けた生体的方法と非生体的方法による感情理解、機械自身が感情を持ち、いかに感情を表現できるのか、人間の感情や情緒の理解が進み、機械が感情を持つことによる社会への影響といった内容について、心理学・行動学・認知科学・脳神経科学などの分野融合で研究されている渡邊先生からお話をいただきました。
また、コンピューターが人間の感情的要素を理解し、人間をサポートする適用分野において積極的なソリューション展開をされている先進企業2社より、顔画像から感情を計測・分析するソフトウエア「Affdex」を用いた事例とその展開を池谷氏から、音声から感情解析を行う気分解析技術「Empath」を用いた事例とその展開を下地氏からお話をいただきました。

アフェクティブ・コンピューティングにおける先進事例と今後の展望に触れていただくことにより、AIを中心としたテクノロジーをいかに使いやすく、人間との親和性の高いものにしていけるのか、インタフェースの進化がロボットやシステムの可能性をどこまで拓くことができるのか、といったことをご理解いただける貴重な機会を提供しました。
配布資料
講師:下地 貴明 「音声から気分状態を測定するEmpath®について」
PDF [2 MB]

タイムテーブル

13:30~14:50
アフェクティブ・コンピューティングの進化と人間の感情・選好渡邊克巳 早稲田大学 理工学術院基幹理工学部表現工学科 教授
15:00~15:40
感情認識AI「Affectiva」池谷浩二 株式会社シーエーシー 取締役 業務担当執行役員 
イノベーションカンパニー長 
15:40~16:20
音声から気分状態を測定するEmpath®について下地貴明 スマートメディカル株式会社 取締役ICT事業本部長
16:30~17:50
インタラクティブ・セッション
18:00~19:30
懇親会

当日の様子

 けいはんな「エジソンの会」第11回会合では、アフェクティブ・コンピューティングの研究が多種多様な角度から行われており、実験心理学・認知科学・脳神経科学などの手法による実験研究から実社会への還元に向けた応用研究に至るには、まだまだ解明されていない問題も多く、今後さらなる研究の進展が必要であることも分かりました。
 渡邊先生の、「自分たちの研究はまだまだ道半ばであり、すぐに社会への還元が図られるものは少ないが、30年先50年先の社会において役立つものになれば、との思いで取り組んでいきたい」との言葉が印象に残りましたが、昨今の指数関数的な技術進歩は、近い将来の実用化を可能にするかもしれません。
企業においては、顔の表情から感情を読み取る感情認識エンジンや声の機械学習による感情認識エンジンなど、すでにアフェクティブ・コンピューティングの世界が社会実装され始めており、人間と機械のインタラクションが大きく変わろうとしていることを実感しました。
今後、サイバーとフィジカルの界面における、とくに人間の関わりにおいては、人間の情緒や作法に合った新たな関係性が構築されていくものと期待されます。

「アフェクティブ・コンピューティングの進化と人間の感情・選好」

渡邊克巳 早稲田大学 理工学術院基幹理工学部表現工学科 教授

人間の感情、顔・表情認知、選好、雰囲気について、人がどのように変化し、どのようにものごとを好きになっていくのか、どのように判断するのかに関しての研究を紹介する。感情のモデルは、Russell & Barrettの2次元モデルやPlutchikの感情の輪が有名であるが、活性化レベルは測定し易く、快-不快については非常に測り難いという問題がある。また人間の感情がこのような体系を成して頭の中に存在するわけではない。 
感情を科学する為には感情を客観的に観察できる情動(交感神経性/副交感神経の活動)反応を研究するが、情動の古典的理論としては、「ジェームズ・ランゲ説」(感情の抹消起源説 -泣くから悲しい-)、「キャノン・バード説」(感情の中枢起源説 –悲しいから泣く-)と、情動二要因説がある。健常者は自動的な身体変化を脳へフィードバックし、リスクを回避するメカニズムが働いており、アントニオ・ダマシオが脳の腹内側前頭前野損傷患者のギャンブル課題実験により主張する抹消起源説(ソマティック・マーカー仮説)に再考の動きがある。ダットンとアロンの吊り橋実験においても、吊り橋の揺れが自律神経系の活動を誘発し、生理的現象が情動に先行する実験結果が得られたが、流行りの「壁ドン」に見られる好きと勘違いする現象を生じさせる。また、骨伝導式ヘッドセットを使い、自分の声と15 ミリセカンドずらしながら情動フィルタを通して本人の声を少しずつ楽しい声に変化させたものを聴かせると、その人は楽しい感情になり、その逆に悲しい声を聴かせると悲しい感情になるのも、同様に感情が感覚や環境から誘発される感情発生のメカニズムであり、生理的現象が情動に先行している例として、感情の操作が可能と考えられる。
好みがどのように形成されるかには、新奇性(新しいものが好き)と親近性(慣れ親しんだものが好き)が関わっており、見れば見るほど好きになるという単純接触効果も働く。一方、第一印象は1/10秒で決定され、その後も変わることはないが、自発的意思決定において、意図はPostdictiveな側面を有し、後付けで理由を考えることが分かってきた。
従って、「自分はこうしたいからこうしたんだ」というようなことが、どれくらい有効なのか、購買行動/パートナー選び/証言・自白においても、元から意図はあるのか、判断に先立つ意図という概念の有効性の範囲が問われている。
集団的意思決定においても、無意識的な同調、相互相関、目の前の他者の影響を受けるという経験は、潜在的な同期を促進するのであり、同期が高いほど印象も良くなる。
意見の相違においては、エキスパート/素人のアドバイスのどちらを選ぶか、情報の正しさと全く無関係なところで決めており、自分の判断に価値を付けたいという理由に起因する判断そのものの価値というものが存在している。これは、今後AIの役割が関与するところである。
最後に、JSTのCRESTにて「潜在アンビエント・サーフェス情報の解読と活用による知的情報処理システムの構築」をテーマとして、空間に存在する雰囲気をどうやって計測・解明、解析・活用して、人だけでも機械だけでも得られなかった「新しい気づきや知識」に繋げるかを研究している。このテーマを通じて人間と調和して創造的な協働を行うための新たな視点とブレイクスルーを生み出し、それを社会の中にどのように組み込むか、それによって我々はどのような社会を築くのかを考えて行きたい。

「ディープラーニングによる感情認識技術とその活用事例

池谷浩二 株式会社シーエーシー取締役業務担当執行役員 イノベーションカンパニー長

当社は1966年に日本で最初の独立系ソフトウエア会社として発足し、情報システムに関するコンサルティングから、開発、保守、運用、業務受託までの一貫したサービスを提供している。未来のビジネスのシーズとなりうる、革新的な技術・製品・サービスを持った主にシリコンバレーを中心としたスタートアップ企業に投資、出資を実行しているが、感情認識AIのAffectivaもその一つとなる。Affectiva社は、2009年MITの研究者であったRana el Kalioubyが創業し、エモーションAI市場のリーディングカンパニーである。製品名はAffdexで、機械学習を用いた世界最大の表情データベース(75ヶ国/600万人)を所有しており、1400以上のブランドや企業で広告を見た消費者の感情テストに利用している。
機械学習により、人の顔画像(動画、静止画)から、その人の表情・感情、年齢、性別、エスニシティを識別する。FACS(顔面動作符号化システム)理論により、リアルタイム計測で同時複数認識を行う。SaaSによるWebサービス、企業が既存で保有する顔動画/写真等のデータを分析して感情データに還元するサービス、メジャーなOSで動作する感情認識AIライブラリーの提供を行っている。表情筋を認識する為に25種類以上のポイントの動きをコンピュータで判別し、ほんの一瞬の表情も検出できる。21の表情測定、7つの感情と2つの指数についての測定値と、外見上の特徴(年齢のレンジ/エスニシティ/性別)を出力し、簡易的に13種類の絵文字コードで表現することも出来る。
展示会や画像を見たときの人の表情を検知して販促やリコメンデーションに使用したり、
eBayでの店頭プロモーション、店舗の商品棚を利用した顧客とのインタラクティブマーケティング、ベントレーのビデオ視聴分析からのカスタマイゼーション提案、自閉症患者が人に対する学習認知力(人の感情の読み取り)を上げるためのサポート、教育現場の学習アプリへの組み込み、ドライバーの注意力やストレス把握によるコネクティッドカーへの適用など、活用領域は多岐に及んでいる。
ビジネス用途では未だ使われ始めたばかりであり、これから広く市場のビジネスアイデアを取り入れるため、PoC(コンセプト検証)なども含めて、けいはんなの企業や研究機関との協業を積極的に進めて行きたい。

「音声からの感情解析技術によるヘルスケアとその展開」

下地貴明 スマートメディカル株式会社 取締役ICT事業本部長

当社は都心型の多診療科クリニック開発事業と病院に来られない人の為にICTを利用した健康情報の配信を行うICTセルフケア事業を行っている。ICTセルフケア事業では、音声を機械学習にて分析し喜怒哀楽を把握するEmpathと呼ばれるエンジンの認識技術を開発した。市場においては感情を理解するテクノロジーに対する期待は高まっており、amazon echo、Google Home、Apple homepod、LINE WAVEなど、音声アシスタント市場は台頭し、マーケットサイズにおいてもアフェクティブ・コンピューティング市場は2012年に$54Billion、音声インターフェースは2024年に$127Billonに拡大する市場と予想され、まさに感情と音声が次のキーテクノロジーであり、音声の時代が到来すると言える。
Empathは3年以上の研究開発を行い、数万人の音声データを複数人で聞いて評価(ラベル付け)し、分類音声の特徴量解析を行って、機械学習にてアルゴリズムをアプリケーション化している。2013年以降、神奈川大学/東京大学/奈良先端科学技術大学院大学との共同研究を実施しており、2016年からの経済産業研究所との共同研究で、声だけで、うつ病はどこまで診断可能かについて、属性情報のみによる診断と比較した場合、音声解析のみ、あるいは音声解析と属性情報を合わせた場合の方が、高精度でうつ病の診断が可能であるとの結論を得ている。
日本での導入実績として、NTTドコモの被災地支援事業に対するメンタルヘルス対策アプリの提供を始めとして、企業のストレスチェック義務化に対応したメンタルヘルスアプリである「じぶん予報」をNTTドコモから販売し、プロバイダ部門優秀賞を受賞した。また、コールセンターのオペレータの退職率を下げ、アウトバウンドでの取引成約率を上げる目的や、ロボティクス分野での導入、さらにはフィットネスクラブでの心と体の調子を整えるコンディショニングアプリで最適な運動メニューの提案などに活用されている。 Web APIも公開中で、現在40か国300ユーザーが利用されている。
Empathは、音声からの感情認識であり、言葉の内容は見ていないユニバーサルなエンジンであるため、世界市場への展開を図ることが可能であり、2017年のトピックスとしては、UAEハピネスプロジェクトに採用され、UAE連邦内閣省とのEmpath活用幸福事業推進についての基本合意締結、音声感情解析技術による幸福調査を展開中である

[インタラクティブ・セッション]

感情認識の信頼性を如何に高めるか、コンピュータが読み取った感情を人へフィードバックする方法、嘘の見分け方、ユニバーサルかどうかの検証、感情の操作性と倫理観、メンタルヘルスや介護マーケットへの利用について、など多くのテーマから活発な意見交換が行われました。

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