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第12回 けいはんな「エジソンの会」

開催概要

自動走行システムについて

講師
  • 有本 建男
    国際高等研究所副所長、政策研究大学院大学 教授
  • 葛巻 清吾
    内閣府SIP自動走行システム プログラムディレクター
    トヨタ自動車株式会社 先進技術開発カンパニー 常務理事
  • 上條 俊介
    東京大学 情報学環 准教授
  • 古屋 輝夫
    理化学研究所 理事長室長
開催日時 2017年7月24日(月) 13:30~19:30
開催場所 公益財団法人 国際高等研究所
住所 〒619-0225 京都府木津川市木津川台9丁目3番地
概要 ネットワークとセンシング技術の進展に伴い、自動車はネットワーク端末化し、コネクテッドカーへと進化しています。外界や障害物を認識するためのセンサやレーダーに加えてAIを駆使することで車両を自律走行させるだけでなく、インフォテイメント、テレマティックス保険、無人搬送サービスなどを含む一連のエコシステムが構築されようとしています。
第12回会合では、「自動走行プロジェクト」が、内閣府の産学官連携の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)として進められている背景とその取り組みを、科学技術イノベーション政策の視点から、内閣府戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)で当該テーマに参画の当研究所副所長、政策研究大学院大学教授の有本先生に説明いただきます。
トヨタ自動車株式会社の葛巻氏からは、SIPプログラムディレクターの立場から日本の自動走行システムの検討状況について、日本発で推進される次世代都市交通システムの全体像と実用化に向けての共通課題、国際連携の方向性等、日本における産学官連携による取り組みの全体像についてお話をいただくとともに、トヨタ自動車の考える自動運転システムについて、そのコンセプトの説明とともに、それを支える技術やAIの活用など、その最新の取り組みを紹介いただきます。
また、東京大学 生産技術研究所の上條先生からは、自動走行システムに必要な構成要素である「認知」、「判断」、「操作」、「人との協調」を実現するセンサ・レーダー等のセンシング技術、「セキュリティ」、「シミュレーション」、「データベース」などの基盤技術の最新動向とともに、自動走行を支える高度な「自己位置推定」「周辺環境認知」のためのダイナミックマップの構築についても、技術的な観点から掘り下げた解説をしていただきます。
さらに、理化学研究所の古屋氏からは、企業と理研の連携によるイノベーション促進のための新たな方策についてご紹介いただきます。これまで以上に民間企業のニーズにマッチした柔軟かつ密接な協業体制と支援活動により、理研の創出するシーズを、機動性をもって事業化・商品化に繋げていただくことを目指します。
 
自動運転における先進事例に触れていただくことによって、AIを中心とした新たなテクノロジーがどのように活かされ、どのように新たなエコシステムが切り拓かれるのか、自動車以外の分野でも適用可能な次世代の基盤技術をご理解いただける機会となります。 
配布資料
講師:上條 俊介 「自動運転における センシングとディジタル地図との周辺技術」
PDF [5 MB]

タイムテーブル

13:30~13:50
自動走行プロジェクトの位置付け  ~科学技術イノベーション政策の視点から~ 有本建男 国際高等研究所副所長、政策研究大学院大学 教授
13:50~15:00
自動運転実現に向けた日本政府の取り組み 〜SIP⾃動⾛⾏システム〜葛巻清吾 内閣府SIP自動走行システム プログラムディレクター
トヨタ自動車株式会社 先進技術開発カンパニー 常務理事
15:05~16:15
自動走行システムの基盤技術とダイナミックマップの構築(仮題)上條俊介 東京大学 生産技術研究所 准教授
16:20~17:30
インタラクティブ・セッション
17:30~17:50
「理研におけるイノベーション促進方策について」古屋輝夫 理化学研究所 理事長室長
18:00~19:30
懇親会

当日の様子

けいはんな「エジソンの会」第12回会合では、政府の戦略的イノベーション推進プログラムとしての自動走行の位置付けと政府の取り組み、今後の課題や海外との連携などについて、お話を伺いしました。
また、自動運転を実現させるためのこれまでの研究内容と最新技術の活用について説明を受けたうえで、レベル5の完全自動運転の実現には道半ばであることも理解できました。自動走行プロジェクトを通して、日本が競争力を高め、如何に世界をリードすることが出来るかが問われており、産官学の一層の連携が必要であることを認識しました。
 また、イノベーション推進のための新事業立ち上げについて理研より説明があり、事業概要や組織体制、サービス内容を理解出来ました。

「自動走行プロジェクトの位置付け ~科学技術イノベーション政策の視点から~」

有本建男 国際高等研究所副所長、政策研究大学院大学 教授

政府は科学技術イノベーション政策の立案・実施を行うため、内閣府に総合科学技術イノベーション会議を立ち上げ、産業界からもメンバーが選定され活動されている。基本計画において、未来の産業構造と社会変革に向けた取り組みとして、未来に果敢に挑戦する研究開発と人材の強化、世界に先駆けた超スマート社会の実現、超スマート社会の競争力向上と基盤技術の戦略的強化が謳われている。安倍総理を議長とする総合科学技術会議においても、SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)を国家の重点プログラムとして強力に推進していくことが決定した。本日のテーマである「自動走行システム」もSIPの11あるテーマの一つである。
これまでの伝統的なアプローチは、現状から未来に向けた新たな製品やプロセスを生み出していくことであったが、「自動走行システム」は未来を定めてバックキャスティングした上で、今何をするべきかを科学的観点から検討するアプローチを行っている。
先ず大規模実証実験を通して、産学官連携の具体的な場作りを行いながら連携体制を整えていく。各自動車メーカーやサプライヤーの共通部分はきっちりとした基盤として押さえておいて、各社が競争を行う仕組み作りと人材を持続的に養成していくことが重要であり、世界に向けて如何に競争力を高めていくかが問われている。

「自動運転実現に向けた日本政府の取り組み〜SIP自動走行システム〜」

葛巻清吾 内閣府SIP自動走行システム プログラムディレクター
トヨタ自動車株式会社 先進技術開発カンパニー 常務理事

1886年に世界初の自動車が登場し、道路を走る車が年ごとに増えていったが、環境の整備が間に合わないまま、当初は大混乱が起きていた。それはまさに新たなイノベーションの特徴であり、現在の自動運転についても同様のことが言えるのではないか。
自動運転の開発は、米国国防省が2004年DARPAチャレンジで砂漠のど真ん中に物資を送り込む完全無人のロボットレースから始まった。カーネギーメロン大学、スタンフォード大学、ヴァージニア工科大学などが参画し、後に各大学の開発者がベンチャー企業を興したり、各企業へ就いて、自動走行の開発の中心メンバーとなっている。自動運転への期待としては、事故削減や高齢者支援、トラック・バスドライバーの不足への対応などが挙げられるが、自動車産業の競争力強化と関連産業を含む市場の拡大と創出への期待は大きい。
各国の取り組みについては、米国は自由に競争させる、欧州は法律・通信を整備して管理し、日本は車自体を管理するという、それぞれに特徴があるが、3地域は同時に開発が進んでおり、協調して環境整備を進める動きとなっている。特にドイツでは国策としてカー市場を将来もナンバーワンにするとの強いメッセージを国のホームページに掲げている。日本政府はSIPとして戦略的に予算を配分し、①事故低減、渋滞削減②自動走行の早期実現と普及③高齢者・交通制約者に優しい先進的な公共バスシステムの実現を目標に掲げており、実用化までをやり遂げることが今までのプロジェクトとは大きく異なっている点である。2020年までにレベル2の実現と次ステップに向けた機能拡張性要件・優位順位の明確化及び実現化の目途を付ける予定である。研究開発領域の中で、HMI(Human Machine Interface)については、各企業・機関ごとに特にバラバラであるためガイドラインを作るなど、協調できるところを見つけて進めていく。
研究開発領域のうち、ダイナミックマップ(DM)は、自動運転のみならず運転支援にも効果を発揮するので、共有データは協調領域としてオープンにし、各企業が付加データを付け加えられるように考えている。本年6月、電機・地図・測量会社と自動車会社の共同出資により協調領域の整備と実証・運営を行うため、ダイナミックマップ基盤株式会社を設立した。その役割は、3次元地図基盤データ/DM協調領域の収集/生成を行うことであり、加工については、地図会社/測量会社等の競争領域、提供については自動車産業/公共事業者の領域と位置づけている。DMの活用が広がると、首都高で既に取得している橋梁の摩耗データと組み合わせて、インフラ管理や防災・減災などへの活用拡大やコスト削減にも利用でき、超スマート社会の実現に向けたSociety5.0への実現にも寄与できるものと考える。国際連携活動も積極的に行われ、DM、HMI、情報セキュリティにおいても標準化への活発な取り組みを行っている。
大規模実証実験においては、海外からもドイツの大手自動車会社3社に加え、広く国内外のサプライヤーにも参加を呼びかけ、オープンな議論の場を提供し、国際標準化及び研究開発を促進している。当初は首都高速から始めるが、将来的には実験としての自動車専用道路から一般道へどう下ろしていくかが大きなテ-マとなるだろう。
実証実験において、DMについては、配信の単位や提供範囲については最低限のものは何かを考えて、ある程度エリアを絞る必要があると考えている。また、情報セキュリティについては、ホワイトハッカーの育成方法や各国の人を対象にしたHMIの検討、人の位置情報の取得についてのスマホの利用、など課題が山積している。コスト面では、山間部に対する対応にはコストがかけられないことも今後の展開において重要である。
2016年9月20日米国運輸省NHTSA(National Highway Traffic Safety Administration)において自動運転のガイドラインが定義され、 SAE(Society of Automotive Engineers)の自動運転レベル定義が採用された。レベル定義については誤解を招き、混乱が生じているため、今後官民ITS構想・ロードマップの定義もSAEベースで見直することが必要である。
人を排除して安全を担保することは非常に難しく、人と車と交通環境が三位一体で安全は担保されるということを前提に出口を見つけながら、何のために自動運転を実用化していくのかを考え、楽をするためではなく豊かになるため、自立した生活・豊かな社会を目指して、来るべきモビリティ社会の実現に貢献して行きたい。

「自動運転におけるセンシングとデジタル地図との周辺技術」

上條俊介 東京大学情報学環 准教授

自動運転の研究は、軍事技術を目的にDARPAから始まったが、当初より民間転用をかなり意識した設計になっており、80年代から90年代に世界を席巻した日本に対して、米国が次の世代に逆転して世界をリードすることを目的に危機感を持ってデザインしてきたものと理解している。自動運転では、AutonomousとAutomatedという単語が使われるが、Autonomousは自律的な動きを意味し、Automatedは機械による制御・操作により、場面を限定し、インフラ側も協調させて整備していくという意味合いを含んでいる。
初期の研究として始まったCurb Detectionは、石畳の道が多い欧州で縁石をLIDARやステレオカメラで探知する方法であり、日本では道路の白線を探知する。ラテラル方向はGPSでの誤差修正を含め探知が出来るが、縦方向の探知については、誤差をドットカウントにて改善している。
その後、SLAM(Simultaneous Localization And Mapping)に移り、マッピングと同時にポジショニングしていく研究が行われた。ただ絶対座標が最初しか定まっていないため、移動するたびにずれが生じるので、ところどころにランドマークをおいて、そこで補正する方法を取っている。欧州では、RTK-GPS(Realtime Kinematic GPS)の利用は可能であるが、ビルの反射波により都会では使えず、通常のGPSを利用することになるので、精度が落ちてやはり使えない。
自動運転向けの利用可能な既存のマップについての議論があるが、Google earthは、航空データから起こしているので、使えるフォーマットにはなっていないし、クオリティーも地域によって異なるので使えない。国交省が道路基盤地図情報を管理用として整備する考えがあり、国が整備するなら2Dに関しては、これをベースにし、何段階かレイヤー(カーナビ、工事、自動運転等の活用層)に沿ってデータを出していくようにしたらどうかと考えている。同様に、3D地図も、BIM(Building Information Modeling)、CIM(Construction Information Modeling)を作成する際に登録を義務付けると、利用可能なマップが出来上がるのではないかとも考えている。
交通物体の探知については、ステレオカメラからStixelと呼ばれる表現方法で物体を縦長の線の集合体と捉え、路面からの高さや物体までの距離と移動方向と到達位置の予測を行う方法がある。特に歩行者検知と移動の予測は画期的な技術であり、今はディープラーニングがあるが、当時HOG(Histograms of Oriented Gradients)は歩行者検知にブレイクスルーをもたらした。   
現在NEDOにおいて、道路のキャパシティを増やすことと、事故削減を目的にしてAutomated Platoonの実験を行っている。海外では5車線6車線あるのでPlatooning専用車線を作ることも考えられるが、日本は3車線しかなく難しい状況である。また車間距離について、従来はACC(Adaptive Cruise Control)の機能で各種センサーによる前車の接近を検知していたがし、CACC(Cooperative Adaptive Cruise Control)にて前を走る車と通信(車々間通信)を行うことで、ACCよりも車間距離をきめ細かく制御することができるようになった。ただ、衝突回避の最終手段はセンサーであると考えている。
自分の研究領域については、都市部での3次元地図をどれだけ簡単に作るかをテーマにしてきた。実際に測量しても走っているとズレが生じるので、航空写真が一番正確であり、航空写真の精度を活かしながら、3次元データをその上にプロットしていく方法を行っている。ただ、95%は自動化できるが、残りの5%は人の手で修正する必要があり、業者の手作業で作ったものも含め、市場には準正解データしかない。
GPSについては、都市部では数十メートルほど狂うので、都心では地図とLIDARがあれば、自動運転にGPSは必要ないと考えているが、反射波3Dモデルで反射波の推定を行い正解位置を探し当てる研究を行っている。GPSを利用して歩行者の位置を車に正しく提供する「歩行者の安全プロジェクト」の実証実験にも参画しており、歩行者や車の動きをDynamic Bayesian Networkに学習させる研究も行っている。

「自理研におけるイノベーション促進方策について」

古屋輝夫 理化学研究所 理事長室長

理化学研究所(以下理研)は1917年に設立され、財団法人、株式会社、特殊法人、独立行政法人、国立研究開発法人を経て、2016年から特定国立研究開発法人に指定され、現在に至っている。
理研は、科学技術の向上を図り、これまで世界最高水準の成果を創出し、世界のイノベーションシステムを強力に牽引してきた。けいはんな地区には、2016年11月以降、国際高等研究所、国際電気通信基礎技術研究所(ATR)、けいはんなプラザ、NTTコミュニケーション、奈良先端科学技術大学院大学等に革新知能統合研究センター(AIP)、バイオリソースセンター(BRC)、事務機能として科学技術ハブ推進室等の設置を開始した。理研の研究内容・技術シーズが企業から見え辛く、これまで企業のニーズに十分応えられていないことを反省し、新たなイノベーション推進方策として、企業に対するこれまで以上に柔軟かつ密接な協業体制と支援活動により理研のシーズを機動性を持って事業化・商品化に繋げる活動の促進を目的にイノベーション事業支援法人の立ち上げを検討している。
事業案としては、会員制とし、情報提供事業、受託・指導助言事業、イノベーション戦略支援事業ごとに、サービス内容を決めて取り組んで行きたい。イノベーション事業支援法人設立について、アンケートを実施させて頂くので、Webサイトからのご回答をお願いしたい。

[インタラクティブ・セッション]

自動走行実現のための各種環境整備(GPSの帯域、道路、事故の責任と法律)、人間の五感の取り込み、モビリティの将来像、ビジネスモデルの構築、国際競争力を付ける為には何をおこなうべきかなど多くのテーマから活発な意見交換が行われました。

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