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第24回 けいはんな「エジソンの会」

開催概要

エネルギーハーベスティング ~発電と充電のテクノロジー~

講師
  • 桑野 博喜
    東北大学未来科学技術共同研究センター 教授 
  • 竹内 敬治
    株式会社 NTTデータ経営研究所 社会・環境戦略コンサルティングユニット シニアマネージャー
開催日時 2018年8月28日(火) 13:30~19:30
開催場所 公益財団法人国際高等研究所
住所 〒619-0225 京都府木津川市木津川台9丁目3番地
概要 エネルギーハーベスティングのハーベストとは「収穫」を意味し、身の回りにある熱や振動や電波など環境中に存在する様々な形態の微弱なエネルギーを得て、電気エネルギーに変換蓄積する技術です。あらゆるものがネットワークにつながるIoT時代においては、電源供給が不可能な環境にあるデバイスをどのようにして長期間作動させ続けるかが重要な課題となってきています。
第24回会合では、日本機械学会の理事を経て、マイクロ・ナノ工学部門運営委員長、マイクロエネルギー研究会主査などを務められている桑野博喜先生より、エネルギーハーベスティングの発電側・蓄電側の最新技術とその実装について説明を頂くとともに、現状の課題や今後の展望についてご説明を頂きます。また、エネルギーハーベスティングコンソーシアムの事務局としてIoTの普及と応用展開を促進されている竹内敬治氏より、具体的な国内外での最新事例、実用化・普及に向けた取り組みなどについてご説明を頂きます。
エネルギーハーベスティングについての最新技術や動向を学ぶとともに、先進事例や今後の展望に触れて頂くことによって、我々を取り巻く社会や環境がどのように進化していくのか、分野を超えた研究者・技術者、企業の様々な立場の皆様にも非常に興味深く、大いに参考にしていただけるものと期待しています。
共催、後援、協力 【後援】国立研究開発法人理化学研究所

タイムテーブル

13:00
受付開始
13:30-14:50
エネルギーハーベスティングを支える最新技術桑野 博喜 東北大学未来科学技術共同研究センター 教授
15:00-16:20
エネルギーハーベスティングの最新実用化動向 竹内 敬治 株式会社 NTTデータ経営研究所 社会・環境戦略コンサルティングユニット シニアマネージャー
16:30-17:50
インタラクティブセッションご登壇者(桑野博喜氏、竹内敬治氏)
上田 修功「エジソンの会」スーパーバイザー
※各セッションの時間に質疑応答を含みます。
※インタラクティブ・セッションでは講師の対談に加えて、参加者からの質問やコメントも加えたインタラクティブな場とします。
18:00-19:30
懇親会
主催者による記録・広報等のため、本イベントの写真撮影・録画・録音、オンライン配信、ソーシャルメディア配信等を行う場合がございますので、予めご了承ください。

当日の様子

けいはんな「エジソンの会」第24回会合は、「エネルギーハーベスティング ~発電と充電のテクノロジー~」というテーマで開催致しました。
 我々の周りの環境には、マイクロエネルギーを生み出す発電源となるものが多く存在しますが、そこから電力をどのように取り出し、いかに利用するのか、最新のテクノロジーによる研究開発の進化を学びました。また、マイクロエネルギーは多様な用途で活用され、実際に我々の身近な製品にもたくさん搭載されていることを知りました。
多様な発電源と多岐に亘るIoT機器への応用をビジネス化するには、到底一社では実現が出来ず、発電源の入口からIoT製品への活用の出口までの一貫したエコシステムを構築することが重要であり、関係機関や企業の連携と協業が必須となってきています。エネルギーハーベスティングを進展させるためには、これまで日本では根付き難かった機関、企業の協働によるオープンイノベーションの推進を図ることが求められています。
エネルギーハーベスティングの促進を、世界市場における日本の大きなビジネスチャンスと捉え、取り組んで行く必要があると感じました。ご講演頂いた内容は下記の通りです。

「エネルギーハーベスティングを支える最新技術」

桑野 博喜 東北大学未来科学技術共同研究センター 教授

水力や風力のような運動エネルギーを電気に変えるものは、原子力や火力を除き、全てエネルギーハーベスティングであるが、ここではAIやIoTに求められている超分散型の小さなエネルギー源、マイクロエネルギーについてお話をする。
マイクロエネルギーは、電池のエネルギー密度が向上し、小さくなることで、色々なものが持ち運び可能となり、IoTやセンサネットワークなど新しい市場への展開と環境問題への貢献も可能である。昨今ではロボティクス、医療、福祉機器分野への展開も期待されている。
IoTの進展により2020年までに最大1,000億個のモノがネットにつながり、2025年までには年間最大6.2兆ドルの経済効果が見込まれるとの予想もあり、IoTの応用分野も多岐に亘るため、世界中で新しいサービスを行おうという活発な動きがある。
研究チームでは、センサを駆動させる自立電源の供給によるエネルギーハーベスタの研究を進めている。多岐に亘るセンサの実用化には莫大なリソース(金/人)がかかるため、コストを抑え出来るだけ普及を促進するために、回路を共通的な構造にして、化学的なセンサ、物理的なセンサの両方を図る表面弾性波の研究も推進している。
機械エネルギーを電気エネルギーに変換する方法は、大きく分けると電磁誘導と静電誘導、圧電利用の大きく3つに分けることが出来る。そのなかで、電磁誘導はコイルが必要で大きさの問題があるので、静電誘導と圧電を研究テーマとした。
静電誘導発電では、エレクトレットの電界により電極に電荷が誘起し、振動による電極間隔の変化で静電容量を変化させ発電させる。コロナ放電ではイオンを生成し、帯電させるが、独自に開発した自立エレクトレット薄膜により、従来の7-8倍の電力を得ることが出来た。また、色々な周波数を発電に使うため、非対称マルチ共振バネによる振動発電を提案中で、上下モードとローリングモ-ドにより、3つの周波数で発電することが可能となっている。
圧電薄膜を用いたエネルギーハーベスティングについては、薄膜の材料によって特徴が異なり、破壊応力、破壊靱性に優れ、かつ環境や車、鉄道などへの利用での長寿命の必要性から、窒化アルミを利用している。SUS基板の上に窒化アルミを製膜し、高出力を実現した。また、周波数に全く依存しない、どんな動きにも対応する3次元デバイスも開発した。圧電薄膜をエレクトレット薄膜として使う方法については特許を取得し、従来の約一桁増しの出力が得られるようになったが、さらに発電出力を上げる研究を進めている。
センサについては、基本構造、信号処理系を共通にして、コストを下げ、簡単な構造で多方面への応用が可能な表面弾性波を使う研究を行っている。角速度センサ、ジャイロは通常シリコンを用いるが、表面弾性波を使うと駆動部を使わない、ほとんど動かないものでジャイロができる。これを使って橋の振動の測定の実証実験を行った。振動変化の測定で劣化状況が把握可能である。
エネルギーハーベスティングはIoTセンサネットワークに必須であり、振動の利用は光、熱利用と相補完的であるが、実用レベルに到達しつつある。また、圧電材料に窒化アルミを利用しているので、環境負荷が小さい。
IoT時代に対応した振動発電電源、高感度センサ及びセンサネットワークの開発と製造を通して、安全、安心で経済的な社会の構築に貢献して行きたいと考えている。

「エネルギーハーベスティングの最新実用化動向」

竹内 敬治 株式会社 NTTデータ経営研究所 社会・環境戦略コンサルティングニットシニアマネージャー

エネルギーハーベスティングについては、古くは約100年前に電源が要らない鉱石ラジオから始まるが、当時は使う側の消費電力が高く、用途が限られていた。その後、腕時計や電卓を筆頭に電子機器の低消費電力化が進み、近年では、多くの製品を含め、無線センサネットなどへの応用も可能となり、スタンドアロンでの利用からIoTへの応用が期待されている。
エネルギーハーベスティング向けの発電デバイスの開発が進み、太陽電池については室内外の微量な光にも最高性能を発揮する発電・蓄電デバイスが開発されてきた。衣服に直接貼り付けて洗濯可能な太陽電池、バッテリーレスの携帯やHD動画ストリーミングも可能となっている。
電磁誘導方式の発電デバイスのほか、圧電効果を利用した製品も発表され、ラケットへの応用では、余計な振動を減らすことでテニス肘の防止に加え、球を強い反発力で返す機能も実現している。静電誘導では、摩擦帯電やゴムの利用も可能とした。海外ではあまり知られていないが、磁場を掛けると伸び縮みする合金の逆磁歪効果利用なども日本では開発されている。
温度差から発電する熱電発電ユニットやモジュール、また、バイオや微生物を燃料として利用する電池も開発されている。
IoTへの活用事例としては、屋外での太陽光、石油・ガス事業での熱電を利用した屋外無線センサ、農場でのフィールドサーバ、大形家畜へのバイタルセンサの取り付け、野生動物の追跡、生体観測センサなどリモート環境での多くの事例がある。また、工場内では、大手企業の無線センサネット製品の電源に振動/熱電発電が利用されている。自己発電型の機器への取り付けにより、工場設備のメンテナンスコスト軽減にも役立て、スマート工場化を目指している。
また、海外ではスマートシティへの取り組みとして、ゴミ箱、無線価格タグ、定期券チップの手への埋め込み、走行する列車の振動発電による車両モニタリング、貨車モニタリング、発電する枕木、悲鳴からの発電、車輪が踏んで発電する車両検知、電波による発電でのCO濃度検知などが挙げられる。
スマートライフの事例としては、押して発電するバッテリーレス無線スイッチ、空調ダクトの微振動で発電する室温度センサ、水流で光ったり、流量の見える化で節水を促すシャワーなどがある。さらに胃酸を電池の電解質として利用して、無線でIDを送信する服薬測定ツールや、体温を利用したスマートウォッチが製品化され、注目されている。
エネルギーハーベスティングの実用化・普及に向け、入口の部分には、発電源の環境が多くあり、そこに色々な技術がある。また出口としてのIoTには様々なモノがたくさんあるので、ターゲットの見定めが非常に難しく、入口と出口の間の太い線を見つけないとビジネスにならない。また、イノベーションの観点では、関連技術の製品化が進み、調達が容易になってきてはいるが、一社で完結することは困難であり、複数社の連携が必須となる。ビジネスモデルについては、最大の付加価値はアプリケーションレイヤにあり、永久に動く電源は一度しか売れないことを考えると、サービスを起点としたエコシステムの構築が必要となるだろう。
2010年にコンソーシアムが発足し、現在47社の企業機関が参加している。発電デバイス設計や実装ガイドラインの作成を通して、標準化・R&D・実証に向けて公的支援を取り付け、関係企業・機関と連携を図りながら、実用化と普及を進めて行きたい。

[インタラクティブ・セッション]

電子回路の開発状況、製品化のコストとベネフィット、発電源としての無機物と有機物の特性、市場における普及の方向性、標準化とオープン化、電磁誘導と設置環境、市場における日本の優位性、医療分野への応用、コンソーシアムの役割、ビジネスモデルの構築など、多岐にわたる意見交換がなされました。

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