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第25回 けいはんな「エジソンの会」

開催概要

アディティブ・マニュファクチャリング~3次元造形技術によるものづくり革命~

講師
  • 京極 秀樹
    近畿大学工学部 ロボティクス学科教授
  • 前田 寿彦
    株式会社NTTデータエンジニアリングシステムズ アディティブ・マニュファクチャリング事業部
開催日時 2018年9月28日(金) 13:30~19:30
開催場所 公益財団法人国際高等研究所
住所 〒619-0225 京都府木津川市木津川台9丁目3番地
概要 アディティブ・マニュファクチャリングは、積層造形による新しい製造技術です。従来の樹脂を中心とした3Dプリンティング技術から、さらに大きく進展して強靭で高度な機能性を持つ金属部品の製作も可能となってきており、いま開発・設計者は様々な制約から解放されようとしています。
昨今の目覚ましい技術革新と世界の大手企業による大規模な取り組みが、ハード/ソフト両面の革新を促し、まさに産業界で躍進する体制が整ってきました。
第25回会合では、近畿大学次世代基盤技術研究所長、日本機械学会副会長などを歴任され、日本機械学会フェローとして、現在、技術研究組合次世代3D積層造形技術総合開発機構(TRAFAM)のプロジェクトリーダーを務められている京極秀樹先生より、3D積層造形技術におけるグローバル市場の動向と我が国の産業用3Dプリンターの開発動向および今後の展望についてご説明を頂きます。また、3Dプリンターの世界トップシェアを持つドイツEOS社の開発動向と国内外での最新導入事例について、EOS社と独占販売契約を締結しているNTTデータエンジニアリングシステムズの前田寿彦氏よりご説明を頂きます。
アディティブ・マニュファクチャリングについての最新技術や動向を学ぶとともに、グローバルでの先進事例や今後の展望に触れて頂くことによって、産業界のみならず、我々を取り巻く社会や環境がどのように進化していくのか、分野を超えた研究者・技術者、企業の様々な立場の皆様にも非常に興味深く、大いに参考にしていただけるものと期待しています。
配布資料
講師:京極 秀樹 「アディティブマニュファクチャリングによる新たな“ものづくり”」
PDF [4 MB]
講師:前田 寿彦 「アディティブ・マニュファクチャリングを実現するためのEOS社の取り組み 〜世界市場の動向と国内外の先進事例〜」
PDF [7 MB]
共催、後援、協力 【後援】国立研究開発法人理化学研究所

タイムテーブル

13:00
受付開始
13:30-14:50
アディティブ マニュファクチャリングによる新たな“ものづくり”京極 秀樹 近畿大学工学部 ロボティクス学科教授
15:00-16:20
アディティブ・マニュファクチャリングを実現するためのEOS社の取り組み ~世界市場の動向と国内外の先進事例~前田 寿彦 株式会社NTTデータエンジニアリングシステムズ アディティブ・マニュファクチャリング事業部
16:30-17:50
インタラクティブ・セッションご登壇者(京極秀樹氏、前田寿彦氏)
上田 修功「エジソンの会」スーパーバイザー

※各セッションの時間に質疑応答を含みます。
※インタラクティブ・セッションでは講師の対談に加えて、参加者からの質問やコメントも加えたインタラクティブな場とします。
18:00-19:30
懇親会
主催者による記録・広報等のため、本イベントの写真撮影・録画・録音、オンライン配信、ソーシャルメディア配信等を行う場合がございますので、予めご了承ください。

当日の様子

けいはんな「エジソンの会」第25回会合は、「アディティブ・マニュファクチャリング ~3次元造形技術によるものづくり革命~」というテーマで開催致しました。
 3Dプリンターの開発が“3D革命(モノづくり革命)”となり、社会が大きく変革していくと言われてから久しく経ちました。現在の積層造形技術は、とりわけ金属造形において革新的な進化が起こっていることを知りましたが、その一方で、AMの導入には未だ多くの阻害要因があり、それらを乗り越えるために様々なノウハウの蓄積と普及のためのコンサルティング、さらには教育体制の構築も重要であることを理解しました。
先行する欧米や中国は、軍事産業への適応や高付加価値製品への応用に益々注力して、研究開発のための投資を行っておりますが、日本では適応する産業への事情が異なるため、より広範なドメインへの普及を推し進めるため、国を挙げた研究開発とオールジャパンでの取り組みが重要であると認識しました。ご講演頂いた内容は下記の通りです。

「アディティブ・マニュファクチャリングによる新たな“ものづくり”」

京極 秀樹 近畿大学工学部 ロボティクス学科教授

アディティブ・マニュファクチャリング(AM)は、近年大きな成長を遂げており、とりわけ金属3Dプリンターの市場は過去5年着実な伸びを示している。テキサス州のオースティン校で毎年開催されるSFF(Solid Freeform Fabrication)と呼ばれるシンポジウムでは、本年8月には500を超える講演が行われ、モニタリングデータ処理やシミュレーション技術に加え、ハイブリッドAM技術と大量生産を目指すバインダジェッティングをテーマにした講演が大きな注目を集めていた。
AM技術は、個々のマテリアルによって方式が異なる7種類の分類があり、本日お話する金属に合った方式には、粉末床溶融(パウダーベッド)、指向性エネルギー堆積(デポジション)、結合剤噴射(バインダジェッティング)があり、樹脂では、光重合硬化(光造形)、材料押出し(熱溶融積層)、材料噴射(マテリアルジェッティング)、セラミックでは、結合剤噴射(バインダジェッティング)、材料噴射(マテリアルジェッティング)、バイオでは、材料噴射(マテリアルジェッティング)といった方式が適用される。
金属造形技術は、従来の切削加工技術では不可能な形状の製品作成が可能であり、製品機能の統合化や個性化とともに、ニーズへの素早い対応が可能となるが、内部構造表現や傾斜構造等を見極め、製造する製品のターゲットを明確にしておく必要がある。これらAMの生産・加工技術とシミュレーション技術の更なる進歩によって、軽量化構造による機能化設計やトポロジー最適化を実現することが可能となってきた。
課題としては、AM用金属材料が少ない点や高速造形が難しく、大量生産に対応出来ていないこと、さらには大型造形が難しく、品質保証の面ではモニタリング・フィードバック技術が未確立であり、後加工技術の開発も必要であることが挙げられる。それらを受け、バインダジェッティングによる大量生産への対応や、大型造形の為の砂型造形の開発、合金設計による高強度アルミ開発等の新機能金属材料開発、表面処理技術の開発など様々な課題解決に着手している。
基本的には溶かして固める技術なので、未溶融や溶融不良、空隙などの欠陥が発生するが、最適なレーザ照射パターンや粉末特性の向上を図るとともに、熱変形のシミュレーションソフトの開発も行われて歩留りの向上が図られている。
3Dプリンターによる“モノづくり”では、設計から製造・計測までを統合し、AM装置をモジュール化・システム化した統合生産システムの構築が必須であり、高機能化に向けて、装置だけではなく、金属粉末の改良やデジタルツインに繋げるための加工技術を磨き、それらを支える人材の教育にも備えて行く必要がある。

「アディティブ・マニュファクチャリングを実現するためのEOS社の取り組み ~世界市場の動向と国内外の先進事例~」

前田 寿彦 株式会社NTTデータエンジニアリングシステムズ アディティブ・マニュファクチャリング事業部

積層造形は20年前も今も仕組みや原理は同じで、性能もあまり変わっていないが、金属造形については、ここ7-8年で格段の進歩を遂げている。ファイバーレーザーの利用によりレーザーパワーが大幅に増し、いろいろな材料を利用して繊細なパーツが出来るようになってきたことで、普及が促進されてきた。
金属造形は、小型で軽量、高い熱交換効率を備え、複雑な製品の加工工数の削減が可能となるため、GEの航空機エンジンの燃料噴射装置では、デザインの単純化で溶接箇所と部品の削減を実現し、従来品に比べ5倍の製品寿命が得られるようになった。
一方、AMの利点を阻害する要因としては、造形物を支持するためのサポートの必要性とその除去、内部応力と歪み、造形密度と内部欠陥の発生、造形の限界、表面粗度や内部構造の研磨等の後処理、品質評価方法、品質の安定性と新材料への対応など、これまでの製法とは異なる新たな課題が挙げられ、これらを克服する必要がある。
サポートの部材を出来るだけ少なくするためには、設計、各種造形条件を工夫するためのノウハウと造形ルールが必要となる。内部応力については、実験で熱処理を行うことで応力が開放され、高い効果を上げられることが分かってきた。歪みのシミュレーションもある程度可能となってきてはいるが、品質に影響を及ぼすプロセスパラメータは250項目を超える。
AMのためのデザインから造形パラメータを駆使して、何度もトライアンドエラーを繰り返し、後処理に繋げて製品化を実現して、初めてAMのレシピ開発が完成する。ようやくAMでモノが造れても、後工程とどう繋げるのか、3Dプリンティングだけでモノはできず、後には機械加工が発生し、どこまで3Dプリンティングでどこから機械加工で補完するのか、などの検討が必要となる。また、製品が変われば、ノウハウやデータの転用が効かず、また一から別のレシピを完成させる必要があることも大きな課題となっている。
このようにAMの利点を活かした生産の実現のため、阻害要因を克服しつつ、AMの利点を活かしていくことは、製造者側だけの力では不可能であり、サプライヤ側はレシピ開発についてのコンサルティング・サポートを推進し、顧客とともに良品を安定して製造するための製造工程の精査からリスクアセスメントに至るまでを行っていく必要がある。
現在、当社のデザインラボでは、所有する金属積層装置8台をフル稼働させて、ロケットの部品やF1の部品など、先行している欧米の事例に匹敵する製品を多く研究開発し生み出しており、日本のAM技術は欧米に決して遅れをとってはおらず、十分キャッチアップできる技術があるものと考えている。
我々が先頭に立って、日本のAMによるモノ造りをメーカーの皆さんに示しながら 実用化と普及に向けてAM産業を立ち上げるための努力をこれからも行っていきたいと考えている。

[インタラクティブ・セッション]

高機能材料の研究開発動向、ISO・ASTM等の規格化や標準化の動き、自動車産業への適応、粉末材料提供メーカーの心掛ける点、市場における海外との差別化要因、TRAFAMの活動状況、AMの進展とアプリケーションの重要性、バイオ系への取り組み状況、導入時の各種ランニングコスト、海外メーカーの量産化のポイント、教育・トレーニング、今後のドメイン展開、AMの普及と社会モデルの変革、芸術性やデザインなど、多岐にわたる意見交換がなされました。

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