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第27回 けいはんな「エジソンの会」

開催概要

「デジタル医療 第4次医療革命 Medicine 4.0」

講師
  • 村垣 善浩
    東京女子医科大学先端生命医科学研究所
    先端工学外科学分野 教授 
     
  • 中島 直樹
    九州大学病院メディカル・インフォメーションセンター 教授/センター長
開催日時 2018年12月26日(水) 13:30~19:30
開催場所 公益財団法人国際高等研究所
住所 〒619-0225 京都府木津川市木津川台9丁目3番地
概要 サイバーフィジカルシステムによって医療を取り巻く環境を革新していくことで、診断や治療のあり方が大きく変わろうとしています。AI、IoT、ビッグデータを駆使することにより、AIによる病気の傾向把握や診断支援、術式と術後の相関や手術室の可視化、電子カルテからの臨床経過予測、治療方法の共有など、これまで不可能とされてきたような統合的かつデータに基づいた医療のイノベーションを迎えようとしています。
第27回会合では、NEDOのプロジェクト「未来医療を実現する先端医療機器・システムの研究開発」でSCOT(Smart Cyber Operating Theater) Projectに取り組まれている村垣善浩先生より、第4次医療革命への取り組みと将来展望についてご説明を頂きます。また、IT技術を活用した国際医療連携を推進され、次世代ICT基盤協議会では医療情報化推進活動に取り組まれている中島直樹先生より、九州大学病院を始めとしたデジタル医療の最先端事例をご紹介・解説頂きます。

ビッグデータやAIがもたらす第4次医療革命とデジタル医療の先進事例や今後の方向性に触れて頂くことによって、新たなテクノロジーがどのように活かされ、医療を変革していくことが出来るのか、最新の取り組みを学ぶことにより、分野を超えた研究者・技術者、企業の様々な立場の皆様にも非常に興味深く、大いに参考にしていただけるものと期待しています。
配布資料
講師:村垣 善浩 「第4次医療革命を実現するスマート治療室SCOT」
PDF [5 MB]
講師:中島 直樹 「情報が変える医療・介護」
PDF [8 MB]
共催、後援、協力 【後援】 国立研究開発法人理化学研究所

タイムテーブル

13:30-14:50
「第4次医療革命を実現するスマート治療室SCOT」村垣 善浩 東京女子医科大学先端生命医科学研究所 先端工学外科学分野 教授 
15:00-16:20
「情報が変える医療・介護」中島 直樹 九州大学病院メディカル・インフォメーションセンター 教授/センター長
16:30-17:50
インタラクティブ・セッションご登壇者(村垣善浩氏、中島直樹氏)
上田 修功「エジソンの会」スーパーバイザー
18:00-19:30
懇親会
主催者による記録・広報等のため、本イベントの写真撮影・録画・録音、オンライン配信、ソーシャルメディア配信等を行う場合がございますので、予めご了承ください。

当日の様子

けいはんな「エジソンの会」第27回会合は、「デジタル医療 第4次医療革命 Medicine 4.0」というテーマで開催致しました。
 AIやIoT、ビッグデータの進化により、現実世界とサイバー空間を繋ぐ様々な技術が、我々の社会や生活に大きな変革を齎し、医療分野においても大きな影響を与えています。
本日、お越し頂いた村垣先生と中島先生は、現場の第一戦で医療を支えておられると同時に、日本の医療の将来の発展に大きな影響を及ぼされています。人の命を預かる両先生のお話には迫力があり、現場の最先端の取り組みを学べたと同時に、デジタル医療の現状を俯瞰的に捉えることが出来ました。外科医師としての生々しい手術を通し、また病院内での看護の分析を通して、医療の抱える問題を吹き彫りにして頂きました。医療における今後の展開と新たなイノベーションの創出に期待するとともに、情報爆発に向けてこれから行わなければならない課題への対応は急を要しており、国を上げて取り組んで行く必要があることを実感しました。ご講演頂いた内容は下記の通りです。

「第4次医療革命を実現するスマート治療室SCOT」

村垣 善浩 東京女子医科大学先端生命医科学研究所 先端工学外科学分野 教授

2014年に未来医療を実現するための医療機器・システム研究開発事業として、スマート治療室SCOT(Smart Cyber Operating Theater)を立ち上げた。このプロジェクトは、パッケージ化、ネットワーク化、情報化、ロボット化という4つのキーワードを基に、日本初の新しい治療法の開発を目指し、術中のMRIと手術室自体をビジネスとして販売するところまでをゴールとしている。
医療機器の開発は複雑で、ニーズやそれを実現する技術も様々なので、必要な機器をパッケージ化しネットワークで繋ぐことにより、様々な機器の情報を同期してデジタルで保存できるようにした。また、ナビゲーション機能により、時間と空間の位置情報をリンクさせることで、術中でも情報の提示が可能となるため、手術の計画立案や術中のフィードバックなど、最適な治療を実現でき、最終的には、AIを使って術者の意思決定支援に繋げていく。
SCOTは、現時点では海外と比べて非常に先進的で進んでいるので、インフラ輸出としての国際競争力を維持するためにも、規格の国際標準化は欠かすことが出来ないと考えている。
これまで様々な生体信号を何等かの形で可視化してきたが、可視化出来るだけでは十分ではなく、デジタル化し、そのデータを意思決定できるように情報化することが医学の進歩に繋がってきた。ただ、いくら医療情報がデジタルされ、AIが医師を支援出来たとしても、最後に患者と医師との間のコミュニケーションを通したアナログの世界は重要であり、残ることを忘れてはいけない。
現在、SCOTは当大学以外への展開も図り、多くの実績を上げ、高い評価を得ているが、本年7月には、17の医療機器をネットワークでつなぎ、戦略デスクからも術中の術者の動きをリアルタイムに把握し、患者の情報をデジタルに管理できる世界発の臨床症例を行なった。
我々は、SCOTをさらに進化させ、全ての侵襲的治療への展開や全ての病院への導入を図り、自動車に次ぐ日本の輸出の切り札として、治療室産業を創出し、世界の健康・福祉に貢献して行きたい。

「情報が変える医療・介護」

中島 直樹 九州大学病院メディカル・インフォメーションセンター教授/センター長

医療はICTの進展とともに、大きく進化してきた。病院から在宅や遠隔医療などの空間および日常の健康や介護への広がり、生まれてから死ぬまでに散在する紙の情報の電子化、患者と医療施設から、保険者、行政、介護サービス、職場などにおよぶステークホルダーの拡大である。
2020年に日本の人口は65歳以上が30%近くを占めると予測され、急性期病床の削減を目指して外来医療や在宅医療の充実を図る地域医療構想が策定されているが、その実現には、医療からの働きかけだけでは全く足りず、これまでの地域医療を1対Nのスター型ネットワークから、関係機関が連携するメッシュ型に変えていく必要がある。そこで注目されているのが、スマホの利用によるモバイルネットワークの活用である。センサー技術の進化とウエアラブル化に伴うIoTの進展と無線通信によって、これまで紙媒体であった各種のPHR(Personal Health Record)のデジタル化が容易になってきたといえる。また、本年5月に次世代医療基盤法が施行され、匿名加工された医療情報の二次利用が可能となったので、医療情報のさらなる活用が推進されるものと思われる。先制医療分野においても、遺伝子情報だけではなく、環境情報や生活習慣情報などのPHRや患者の主観情報は発症に影響を及ぼし、重要になってくると考える。
一方、日本の医療者は、30万人の医師に対して、看護師が200万人であり、医療の影の主役は看護であると言える。看護師の位置情報と時間をセンサーで取得し分析したところ、作業と時間の可視化が図れ、入院から退院までの看護の内容を把握出来ることが分かってきた。それらの情報は看護師の業務改善に繋げることが可能であり、日々の看護行動時間から患者の健康状態の近未来予測(入院長期化や生活自立度の改善)にも繋げている。
また、臨床現場をデータ解析工房として捉えたLHS(Learning Health System)を導入する全世界的な動きがあるが、医療工程管理におけるクリティカルパスと標準データモデルの作成により医療の質を向上させ、本研究開発の成果から次世代医療基盤の構築を目指した医療イノベーション創出へ結び付けていきたい。
拡大する医療の情報爆発は、もはやヒトの限界を超えつつあり、それらに対応するためにも、AIの活用や医療情報の標準化、患者ごとの健康医療情報の統合・管理、医療責任範囲の明確化や免責規定の整備などを進めることが急務である。

[インタラクティブ・セッション]

AI等の技術革新に期待するところ、AIやマシーンと医師の役割、日本のインフラ輸出としての医療と国際競争力、日本がリーダーシップを取るための国際標準化の進め方、匿名加工情報について、最新がん治療のデータ解析、患者への説明責任・事故責任、医療の進展とシンギュラリティ、センター集中化と地域医療の考え方、未病と医療、ヘルスケア産業の今後の進むべき方向、IoTと在宅医療など、多岐にわたる意見交換がなされました。

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