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第28回 けいはんな「エジソンの会」

開催概要

エネルギー革命 ~発電と蓄電の未来~

講師
  • 瀬川 浩司
    東京大学大学院 総合文化研究科広域科学専攻 教授
  • 堀江 英明
    慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 特任教授
開催日時 2019年1月23日(水) 13:30~19:30
開催場所 公益財団法人 国際高等研究所
住所 〒619-0225 京都府木津川市木津川台9丁目3番地
概要 我が国では、太陽光発電を中心として再生可能エネルギーの大量導入が進みつつあり、電力需給調整や系統安定化にむけた大型蓄電池の研究や、ポストFITを見据えた国民負担の低減に向けて革新的な低コスト新構造太陽電池の実用化に向けた研究が進められています。
新構造太陽電池については、変換効率23%を超える高性能有機金属ハライドペロブスカイト太陽電池が、次世代の低製造コスト太陽電池の本命として世界的に熾烈な研究開発競争のターゲットになっています。我が国でもNEDOプロジェクト「ペロブスカイト系革新的低製造コスト太陽電池の研究開発」が進められていますが、そのプロジェクトリーダーを務められている瀬川浩司先生より、再生可能エネルギー大量導入時代の到来における太陽光発電の新たな挑戦についてご説明頂きます。
蓄電池については、電解液のない全固体電池など革新的な新型電池が登場し、これまでのLiイオン2次電池では適えられなかった様々な機能(高速充電・安全性・高い柔軟性・量産性等)の実現が可能となってきました。革新的な電池の開発は、EVを始めとした電気で動くあらゆる製品を一新するとともに、蓄電の特性を活かした次世代の電力網を構成する要素のひとつとしても重要な働きを担っています。大手自動車メーカーにて高性能電源システムの研究開発に従事され、東京大学人工物研究センター、生産技術研究所を経て、現在新型Li2次電池の研究開発に取り組まれている堀江英明先生より、画期的な全樹脂電池の特性と応用分野及びその未来像についてご説明頂きます。
本会合全体を通して次世代の電池技術の真髄を理解して頂くとともに、近い将来の再生可能エネルギーの動向を俯瞰し、太陽光発電や全固体電池等の次世代エネルギーによる社会の変革に触れて頂くことにより、分野を超えた研究者・技術者、企業の様々な立場の皆様にも非常に興味深く、大いに参考にしていただけるものと期待しています。
配布資料
講師:堀江 英明 「先進型二次電池による次世代のエネルギー変革」
PDF [4 MB]
共催、後援、協力 【後援】 国立研究開発法人理化学研究所

タイムテーブル

13:00
受付開始
13:30-14:50
「再生可能エネルギー大量導入時代の到来 ~太陽光発電の新たな挑戦~」瀬川 浩司 東京大学大学院 総合文化研究科広域科学専攻 教授
15:00-16:20
「先進型二次電池による次世代のエネルギー変革」堀江 英明 慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 特任教授
16:30-17:50
インタラクティブ・セッションご登壇者(瀬川 浩司氏、堀江 英明氏)
上田 修功「エジソンの会」スーパーバイザー
18:00-19:30
懇親会
主催者による記録・広報等のため、本イベントの写真撮影・録画・録音、オンライン配信、ソーシャルメディア配信等を行う場合がございますので、予めご了承ください。

当日の様子

けいはんな「エジソンの会」第28回会合は、「エネルギー革命 ~発電と蓄電の未来~」というテーマで開催致しました。
 世界の再生可能エネルギーの状況と我が国の現状を改めて認識できたとともに、海外の多くの企業が、事業運営を100%再生可能エネルギーで賄う目標を掲げており、日本は再生可能エネルギーに対する認識が不十分であり、対応についても周回遅れであることを知りました。
革新的な太陽光発電と高性能二次電池の開発により、製造方法そのものが変革され、生産性と異常時の信頼性の向上が図られるとともに、高いデザイン性を得ることによる様々な用途への広がりが期待できることを学びました。
再生可能エネルギー市場で日本が世界をリードするためには、情報とエネルギーの融合を図り、最先端の技術開発を進めるとともに、短期的な成果のみを求めるのではなく、長期的で且つ継続的な国の支援が必要であることを実感しました。ご講演頂いた内容は下記の通りです。

「再生可能エネルギー大量導入時代の到来 ~太陽光発電の新たな挑戦~」

瀬川 浩司 東京大学大学院 総合文化研究科広域科学専攻 教授

2015年に国連の持続可能な開発目標(SDGs)のひとつとして、エネルギー問題は大きく取り上げられ、同年のパリ協定での地球温暖化対策とともに、再生可能エネルギーの利用は喫緊の課題となっている。グローバル企業の再生可能エネルギーへの取組みとして、2050年までに再エネ100%の達成を宣言する国際イニシアチブ「RE100」が発足しているが、加盟企業160社の内、日本企業は13社のみと、まだまだエネルギー問題に対する認識が不足している状況にある。
2012年の固定価格買取制度の施行以降、日本の再生可能エネルギーの電源設備容量は年平均26%の伸びを示しており、特に太陽光発電は水力を含めるとエネルギー需要の15.3%を賄う電力となってきた。また、北海道・東北地域内では、風力発電で生まれる電気の送電について3100億円をかけて送電網の整備も進行中である。
太陽光発電や風力発電は、気象条件に依存するため、安定化のための蓄電池の導入や電力負荷の平準化を行う必要がある。系統制約の容量面では、エリア全体の需要バランスを取るために余剰電力の出力制御が必要であり、併せて送電容量の制約を克服するための送電線の増強や、出力変動の調整力拡大も求められる。
日本の太陽光発電導入状況を見ると、2010年から5年で約10倍の伸びを示しており、システム当たりの価格も大幅に低下しているが、海外への依存度は高くなっている。世界の生産量の2015年度の数値では、中国が全体の69%を占めている状況にある。
太陽電池には、いくつかの分類があるが、ハイブリッドなペロブスカイト太陽電池が注目を集めている。革新的な低コスト製造により、ポスト固定価格買取制度(FIT)に向けた発電コスト目標の低減シナリオ設定が可能となるので、大きな期待が寄せられている。今後、IoTの進化による無線センサネットワークへの適用も期待され、余剰電力の発生や出力の急激な変動、電圧上昇等の欠点を克服し、低炭素社会の構築に向けたオフグリッドエネルギーの研究開発を通して、超スマート社会の実現に貢献して行きたい。

「先進型二次電池による次世代のエネルギー変革」

堀江 英明 慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 特任教授

エネルギーの需要と供給の間には常に差があり、太陽光発電などは天候や日照条件等による不安定化の課題があるなど、自然エネルギーを取り入れるためには、需要変動のみならず、供給変動もコントロールする必要がある。これまで電気の最大の技術的課題は、貯められないことにあり、社会の大前提となってきたが、エネルギー効率の高さ、再利用による効率の向上、利用の多様化が図られる二次電池をバッファとして活用することで、外部環境とエネルギーネットワークを構築し、外界を含めたトータルシステムの最適化が可能になると考える。
これまで、エネルギーを動かすための相応しいデバイスがなかったが、蓄電を可能にする大規模定置用二次電池は、電圧変動を受容し、最適な新送電ネットワークシステムの構築を可能とする。次代の社会が受容可能な高性能二次電池の確立は、情報とエネルギーが結びつく革命であると言える。
急激に発展した情報化を根底から支えてきたリチウムイオン電池は、幾つかの潜在的な課題がある。様々な生産工程から構成され、乾燥工程や切断・プレス等の機械的プロセスは生産に制限を与えており、複雑なセル・モジュール構造はコスト増しや信頼性の低下を生じさせている。金属集電体からの発熱についても、大きな課題である。
これまでの金属を基盤とした思想の基にバルクで電流を流す構造から、骨格をポリマーにして、バイポーラ構造と導電性の樹脂を利用することで、発熱をなくし、曲げることや巨大化も可能な未来の電池を生み出すことが可能となる。
未来の電池は、接合性・弾性を考慮した構造デザインとバイポーラ構造を用いた多機能ポリマー界面の構築および樹脂を配置したセル構造化により、生産プロセスに革命をもたらし、これまでのリチウムイオン電池と比べ、-10乗という極めて低い電気抵抗と異常時での高い信頼性、多様な形状の実現を可能にするものと考える。様々な産業にも大きな影響を与える未来の二次電池の研究を通して、日本の競争力を高め、人々に寄り添う技術を開発していきたい。

[インタラクティブ・セッション]

日本の国際競争力、人工知能に期待するところ、国のエネルギー政策、エネルギー需給の共通プラットフォーム化、製品の評価と市場への導入、エネルギーと情報の融合、再生可能エネルギーの履歴と価格との関係、再生可能エネルギーを取り巻く周辺技術、製造方法の革新、耐用年数の考え方、太陽電池の様々な用途と作り込み、世界をリードするための人間力など、多岐にわたる意見交換がなされました。

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