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第36回 けいはんな「エジソンの会」

開催概要

技術革新が産み出すセンサ/センシング技術の進化

講師
  • 鎌田 俊英氏
    国立研究開発法人産業技術総合研究所 センシングシステム研究センター 研究センター長
  • 諏訪 正樹氏
    オムロン サイニックエックス株式会社 代表取締役社長
開催日時 2020年11月18日(水)14:00~17:30
開催場所 公益財団法人国際高等研究所
住所 〒619-0225 京都府木津川市木津川台9丁目3番地
概要  あらゆるものがネットワークにつながるIoE(Internet of Everything)時代において、センサ・デバイスネットワークは産業革新をもたらし、AIやビッグデータ等の新たな技術とともに社会を大きく進展させています。センシング技術がボーダレスなつながりを見せる中、情報を的確に取得するためのセンシング技術開発が重要な課題となり、今日ではSNS情報等のビッグデータと組み合わせて、広域モニタリングにより環境そのものを仮想空間へと取り込む技術も進化しています。
 第36回会合では、産総研内のセンサ関連研究を集約し、産業界との連携を牽引されているセンシングシステム研究センターの鎌田俊英氏より、スマート社会の実現に向けた高度センサ/センシング技術の開発動向や産総研の取り組みについてご紹介頂きます。また、革新技術起点から「近未来」の社会をデザインし、バックキャスティングでイノベーションを創発するOMRON SINIC Xの 諏訪正樹氏より、人と機械を繋ぐセンシングの最前線についてお話を頂きます。

 センシングの最先端技術と展望に触れて頂くことで、今後の研究や具体的な産業革新をどのように実現させていくことが出来るのか、Society5.0時代の新たな価値の創出にどのように活かされていくのか、分野を超えた研究者・技術者、企業の様々な立場の皆様にも大いに参考にしていただけるものと期待しています。
配布資料
第36回「けいはんなエジソンの会」チラシ
PDF [781 KB]
共催、後援、協力 【後援】 国立研究開発法人理化学研究所
     公益財団法人関西文化学術研究都市推進機構

タイムテーブル

13:30
受付開始
14:00-15:00
「スマート社会の実現に向けた次世代センサ/センシング技術の開発」鎌田 俊英氏
国立研究開発法人産業技術総合研究所 センシングシステム研究センター
研究センター長
15:10-16:10
「人と機械を繋ぐセンシング技術の展望」諏訪 正樹氏 
オムロン サイニックエックス株式会社 代表取締役社長
16:20-17:30
インタラクティブ・セッションご登壇者(鎌田 俊英氏、諏訪 正樹氏)
上田 修功 エジソンの会スーパーバイザー
新型コロナウイルス感染拡大予防のため、今回は情報交換会を中止とさせていただきます。

当日の様子

第36回会合は、「技術革新が産み出すセンサ/センシング技術の進化」というテーマで開催いたしました。
今回の会合を通して、センサ/センシング技術の進展に伴い、高速センシングが可能となり、また深層学習の進化と相まってセンサ機能のボーダレス化が進み、革新的な新材料の創製を通して実物空間の非視聴覚情報をも視野に入れた開発が進んでいることを知りました。
センサの世界市場における日本のシェアは約40%である一方で、海外では日本に真似のできない斬新な発想や法律/倫理上踏み込めない領域への果敢な挑戦が始まっています。センサ/センシングの技術は現場に近く、現場には社会課題が内包しており、解決するヒントが多く存在します。そこに日本の強みと優位性を見出していけるのではないかと強く感じました。

今回のエジソンの会はコロナ禍で行う今年度2回目の会合となりました。施設内でのソーシャルディスタンスを保ちながら、情報交換会も割愛して開催しましたが、インタラクティブ・セッションでは、ご参加された皆様よりの質問が途切れることなく続き、あっという間に時間が過ぎました。今後も参加者の皆様からの関心が高く、ホットなテーマを取り上げて実施して行きます。
ご講演いただいた内容は下記の通りです。 

「スマート社会の実現に向けた次世代センサ/センシング技術の開発」

鎌田 俊英氏
産業技術総合研究所 センシングシステム研究センター センター長

鎌田 俊英氏

Society5.0は、格差のない情報活用・新たな価値創造・自動化による労働負荷軽減などスマート社会の実現を目指しており、それを実現するためには、あらゆるものからの情報をいつでも、どこでも、高感度で高信頼性を持ったセンサ/センシングする技術が欠かせない。
次の時代の方向性を語る上で3つの軸に展開して研究を行っている。一つは、生じた事象を未来予測に繋げる「時間センシング」、次に、点や面の空間情報に加え、内部や物陰といった見えないところの情報をセンシングすることで非視聴覚情報を提供して、実物空間リアリティーの実現に繋げる「空間センシング」、最後に、ウエラブルデバイスにより空間センシングを行い、五感情報の取得に繋げる「移動空間センシング」の軸である。
これまで物質センシングについては、物質の同定と高速センシングは相反するものであったが、分光センサ技術の進化により、物質同定高速センシングが可能となってきた。また、密度を上げるための分画技術の進化により反応速度を上げ、高速化学反応センシングが実現している。
コロナ禍で、ウィルス等をその場で検出する技術が渇望されており、現在、ウィルスを磁性体とAu粒子で修飾して濃縮せずに広い空間の中で磁場で揺さぶり、近接場光を用いて高感度で検出する光学検出技術を開発中である。この技術を使い、1分以内でのウィルス検出を目指している。
広域や隠れた部分に対するセンシングでは、衛星からのデータが期待されており、ズーミング技術で情報を取ることが出来るようになってきた。また、応力発光材料をセンシングの対象に貼ったり、塗布して取得する応力センシング技術は、力を歪みの光学情報に変え、例えば、車の衝突試験や接着部分の均等化など、これまで測定できなかったものを計測することが可能となってきた。
生体情報に関しては、装着型デバイスの進化により、ウェアラブルな空間センシングが実現可能となり、起毛電極形成による新たな素材は、使用頻度に関係なく安定した接触抵抗を得ることが出来る。また、筋肉の活動によって生じる微細な振動をセンシングして、疲労度、筋硬度、成長度の計測に繋げることも可能となっている。現在、柔らかな材料を用いた革新的新素材を創製し、ウェアラブルセンサとして薄膜アクチュエーターで風を感じるレベルまで圧電素子の性能が上がっており、取得したデータを可視化し、その上で感性情報に繋げ、異常予知・快適性判断・技量診断などに繋げていく。
今後も産業界との連携を深め、センサ/センシング技術の開発を通して、スマート社会の実現に向けて取り組んでいきたい。

「スマート社会の実現に向けた次世代センサ/センシング技術の開発」

諏訪 正樹氏
オムロンサイニックエックス株式会社 代表取締役社長

諏訪 正樹氏

カメラは、屈折工学系素子としてのレンズを用い、外界の光を光電変換して、撮像素子を形成するメカニズムである。カメラは映像記録装置としての役割を持っているが、機械にとっては、光情報を取得するためのセンサの役割となり、人間の視覚を工学的に実現するものである。
センサは物理量を記録して電子信号に変換するが、実用化する際には、何をとっているのかをしっかりと理解し、物理量の持っているパラメータの断面的な記録情報をどう活用していくかの観点が非常に重要となる。
画像センサの進化を例に取ると、空間分解能としての画素数と時間分解能としてのフレームレートが挙げられる。音は空気の振動であり、時間分解能で観測できれば、カメラはマイクロホンとしての記録が可能となる。微小振動をアンプリファイするアルゴリズムができ、超高速カメラでは人間の可聴帯域とオーバーラップする振動の検知が可能なため、「カメラで音を見る」という聴覚と視覚のモダリティーを簡単に超えることが出来るようになってきた。また、ミリ波やマイクロ波はアンテナの分解能とアルゴリズムによって、壁の向こう側の3D計測を可能にした。今後、技術の進化に伴い、センサ間でモダリティーを行き来する時代が来るだろう。
センシングは、外界から得られる計測データから意味のある情報を抽出することと定義している。対象を工学的に認識することをモデル化/モデリングと呼ぶが、定義できないものを扱うことも多い。モデル化には、White-Box型という第一原理に基づき、再現性が良く、挙動解析が容易なモデル化、またBlack-Box型という定義が困難で、パターン認識や深層学習の進化で注目されているモデル化と、Gray-Box型というWhiteとBlackの中間のモデル化がある。
弊社は約20年前に屋外環境で安定した性能で車を検出する画像型交通流センサをWhite-Box型で開発した。人間が設計するWhite-Box型モデル化の特長は、10~100オーダー程度の画像データでアルゴリズム設計が可能、デバイスの進化・変化で性能が向上する、アルゴリズムが何をしているかが明確でトレイスバックが可能であり、Black-Box型とは大きく異なるメリットが多い。
センシングにおいて、シグナルとノイズは相反するものと捉えがちであるが、例えば、空電(雷などによって大気中に生じる電磁波)は通信の世界ではノイズ、天気予報の世界では発生時期・方向を予報するためのシグナルとなる。シグナルとノイズの考え方を拡張し、どうセンシングに活かすかを考えることが重要である。
IoT時代において、身の回りにセンサが溢れ、数年後には1兆個を超える世界になるだろう。ネットに繋がるセンサがこれからどう使われていくのか、人と機械をより良く繋ぐセンシング技術の開発を通して社会の変革に貢献していきたいと考えている。

[インタラクティブ・セッション]

数年後に一兆個を突破するセンサからの膨大なデータを処理するコンピューターの電力問題、人間と機械の役割の見直し、低価格化するセンシングデバイスの付加価値の創出、データの扱いと個人情報保護や倫理面での課題、非接触化するセンサの利便性とデメリット、デジタル化により益々複雑化する真贋とその判定、生体データの扱いと心地良さや行動変容など、多岐にわたる視点に話が及びました。参加者の皆様からは、先生方との活発な意見交換ができて良かったとのご感想を頂きました。

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  • インタラクティブ・セッションの様子
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