本シンポジウムは終了いたしました。
多数のご参加をいただきありがとうございました。
市民共同参画シンポジウム
―市民とともに考える先端科学技術の行方―
IIAS「哲学と先端科学」の対話シリーズⅠ
第2回テーマ 情報科学 /
技術を「哲学」する
討論への誘い
2016年のアメリカ大統領選で顕在化したフェイクニュース。近年では公平性に欠ける情報操作が日常的に行われ、政治のみならず商業や科学においてさえ見え隠れしています。このフィルターバブルを破り外側の世界を見るためには、改めて個々人が少しずつ意識を高めて理性を働かせ、各々のアンテナを活用させるためにも社会性を強化する必要があります。では科学技術は、そして私達はこれを実現するために何をなすべきなのでしょうか。より善き社会に近づくための一歩となるような会にできれば幸いです。木津川市木津川台9丁目3番地
※主催者による記録・広報等のため、本イベントの写真撮影・録画・録音、オンライン配信、ソーシャルメディア配信等を行う場合がございますので、予めご了承ください。
このシンポジウムはみなさまの意見で討論がはじまります。
(事前ウェブアンケートは終了しました。ご協力頂き、ありがとうございました。)
登壇者紹介
大澤 真幸 氏対談者
元京都大学教授
思想誌「大澤真幸THINKING「O」主宰。
専攻は数理社会学、理論社会学。
日本を代表する気鋭の社会学者であり批評家である。
近著に「社会学史(講談社現代新書)」「三島由紀夫 ふたつの謎(集英社新書)」等がある。
(写真提供:東京大学文学部広報委員会)
前田 英作 氏対談者
東京電機大学システムデザイン工学部教授、
知能創発研究所所長(兼務)
パターン認識、機械学習、環境知能が専門。
情報技術開発の最前線にあって企業と研究の何れにも通じている。
平田 知久 氏コメンテーター
群馬大学社会情報学部准教授
専門は社会情報学。2018年4月より現職。2008年よりアジア9都市のネットカフェ利用の差異とその社会的背景を研究してきました。情報科学技術と「生活」「機器」「人間」の関係について、「それってどこの?」と皆さんに問いかけ、一緒に考えてみたいと思っています。
山﨑スコウ 竜二 氏コメンテーター
大阪大学先導的学際研究機構附属
共生知能システム研究センター特任講師
専攻は哲学、知識科学。20世紀には、人の知的な営みの基盤として身体の役割が注目を集めました。21世紀の今日、私たちの身体は多様に変化しつつあり、ロボットやサイボーグ技術が発達しています。技術とともに自身を開発する人間の可能性を問い直しましょう。
駒井 章治 氏ファシリテーター
国際高等研究所客員研究員
東京国際工科専門職大学工科学部教授
プログラム
14:00 | 開会 |
---|---|
14:05~14:15 | 参加者事前アンケート結果の紹介 |
14:15~14:55 | 対談(大澤真幸氏×前田英作氏) |
14:55~15:10 | コメンテーターのご意見紹介 |
15:10~15:20 | 休憩 |
15:20~16:20 | 登壇者と参加者との討論 |
16:20~16:30 | 休憩 |
16:30~17:00 | 対談(大澤真幸氏×前田英作氏) まとめ(討議・対談を踏まえての問題提起) |
17:00 | 閉会 |
2020(令和2)年9月18日(木)午後2時から国際高等研究所において、『IIAS「哲学と先端科学」との対話シリーズⅠ』の第2回シンポジウムが開催されました。テーマは、『情報科学/技術を「哲学」する』。メインゲストは、大澤真幸先生(社会学者)、前田英作先生(東京電機大学教授)。
本シンポジウムは、満月の夜開くけいはんな哲学カフェ「ゲーテの会」と、けいはんな「エジソンの会」との共同特別企画によるもので、きづ会議(集合知プラットフォームの構築プロジェクト)の協力を得、また理化学研究所の後援を得て開催されました。また、本シンポジウムは、「市民共同参画」シンポジウムと銘打って、参加者から事前アンケートをいただき、その意見を踏まえての対談・討論により、情報科学についての認識を深め、現代社会における焦眉の課題である「デジタル社会」への対応について考えていきました。
事前アンケートには、「フィルターバブル」「情報格差」「個人情報とプライバシー」などの問題のほか、人類と社会の関りについて、「AI(人工知能)」「ビッグデータ」「シンギュラリティ」などに触れ、情報技術の発展に対する不安感を吐露するものも多くありました。ファシリテーター:駒井章治先生(東京国際工科専門職大学教授)からその報告を受けた後、先ず、大澤先生と前田先生に対談していただきました。
近年、発展著しい情報科学、特に、各方面で注目されている「AI」の基盤技術である「深層学習」に関連して、人間の思考システムが未解明な下で、「AI」と人間知能の優劣を論じることは不毛である。人間は必要な問題に注意を集中するが、不必要な問題には関心を向けない。ロボットの認知機能とは決定的に異なる点である(いわゆる「フレーム問題」)。更に、プロの棋士を打ち負かす「AI」は、ある面では優れている。しかし、人間より「賢い」かは、別である。また、現代においては、もはや「AI」と人間知能の対比でなく、その融合化にこそ関心を向けるべきである。それは、蒸気機関が産業革命に与えたインパクトに匹敵する影響を社会の隅々にもたらしつつあるなどの指摘がありました。
こうした意見に対して、対話内容の深堀のために、コメンテーターの山崎スコウ竜二先生(大阪大学特任講師)がメディア論の観点から人のつながり、そして人間能力の拡張などについて、また、平田知久先生(群馬大学准教授)からAIは、そもそも人が何もしないでいることへの価値を評価できるのかなどについて問題提起がありました。
会場からは、情報分野に限らず科学/技術の発展は人類社会に利便性をもたらすが、逆に脅威にもなる。生命(いのち)や精神(こころ)に寄り添ったものであってほしい。また、技術の確かな発展を図り、その暴走を制御するためには科学における基礎研究と応用研究のバランスが求められる、などの意見がありました。
引き続き、まとめの対話に入りました。情報技術、特に、ビッグデータ、「AI」の発展により、全てが「確率」で処理されることとなると、人間の自由な「意思決定」が後景に退き、人生の「物語」を紡ぐことが困難になる。味気ない人生になる。情報科学/技術の発展は「監視社会」をもたらしている。しかし、「豊かで快適な」社会の源泉にもなっている。経済発展にとって「自由と民主主義」は必ずしもその前提とはなっていない。民主主義の有効性は、古代ギリシャの「都市国家」レベルにおいてはまだしも、現代社会においては甚だ疑問である。
更に、人類的課題を突き付けているコロナ禍にも触れて、それへの処方箋は科学/技術が唯一の判断根拠となっている。しかし、それは全能ではない。政治的・経済的判断が不可欠である。しかし、その政治的・経済的システムは、国家主権の下にあり、科学/技術の見地と相容れない局面が生じている。これからの人類にとって国民国家の在り方は大きな課題である。加えて、科学的真理は、一般に、宗教的真理と異なって仮説であり、真理に対して謙虚であることが特徴的であるなど、国家論、科学論にも話が及び、興味深い「市民共同参画」のシンポジウムが展開されました。