基幹プログラム
なぜ今「脱炭素」のうねりなのか
- 研究代表者:佐和 隆光
- 国際高等研究所チーフリサーチフェロー(研究参与)、
京都大学名誉教授
国の内外において、ここ数年、「脱炭素」のうねりが怒涛のごとく押し寄せている。1988年のトロント・サミットで大気中二酸化炭素濃度の上昇がもたらす気候変動(地球温暖化)問題が初めて採り上げられ、92年のリオデジャネイロ地球サミットで国連気候変動枠組み条約が採択され、同条約の第3回締約国会議(COP3)が97年に京都で開催され、温室効果ガス排出削減を先進国にのみ義務付ける京都議定書が採択された。2015年に採択されたパリ協定は産業革命以降の気温上昇を2℃(できれば1.5℃)未満に抑えるべく全ての国々に二酸化炭素排出削減目標の設定を義務付け、今年のCOP26では脱化石燃料へ向けて一定の国際的合意が形成された。脱炭素の世界的うねりの背景、脱炭素化文明社会の在り様等について叡智を結集して論じ尽くしたい。
参加研究者リスト2022.04.01現在
佐和 隆光 | 国際高等研究所チーフリサーチフェロー(研究参与)、 京都大学名誉教授 |
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一方井 誠治 | 武蔵野大学名誉教授、京都大学特任教授 |
江守 正多 | 東京大学未来ビジョン研究センター教授、国立環境研究所地球システム領域上級主席研究員 |
開沼 博 | 東京大学大学院情報学環・学際情報学府准教授 |
加納 圭 | 滋賀大学教育学系教授 |
亀山 康子 | 東京大学大学院新領域創成科学研究科附属 サステイナブル社会デザインセンターセンター長・教授 国立環境研究所社会システム領域上級主席研究員 |
斎藤 幸平 | 東京大学大学院総合文化研究科准教授 |
■ 研究目的・方法
気候変動問題への在来型アプローチがマクロ計量経済分析、技術予測等に偏していることを鑑み、本基幹プログラムは、政治経済学的、歴史主義的、文明論的、科学社会学的アプローチにより「脱炭素のうねり」の所以を解き明かすことを狙いに研究会メンバーを厳選し、少なくとも国内では前例のない画期的な研究成果を目指すものである。定期的研究会において、順次、各委員が披露する知見を叩き台にして徹底的な討論を行う。また、必要に応じて、外部の専門家を招いて見解をうかがう。委員の専門分野が多岐に渡るため、人類にとっての喫緊の課題である脱炭素の意味と意義について超学的な知見が導かれ、文明のパラダイム・シフトの見取り図を描くことが期待される。20世紀型産業文明は化石燃料の大量消費(=二酸化炭素の大量排出)を不可避的に伴った。その意味で、脱炭素化は20世紀型産業文明の超克にほかならない。ここ一両年、突如として「脱炭素のうねり」が押し寄せたのは、20世紀型産業文明に代わる、新しい文明の開幕の予兆と見て差し支えあるまい。とはいえ、「新しい文明」の正体は依然として漠として不明である。本基幹プロジェクトが、1年有余の研究・討議を経て、脱炭素化文明社会の輪郭をおぼろげながらも描き得ることを期待する。
今後の計画・期待される効果
脱炭素化がもたらすと予想される「文明のパラダイム・シフト」を解き明かすことが、本基幹プログラムの目指すところである。気候変動問題に関するジャーナリスティックな論評、経済学者や工学者による気候変動・脱炭素化に関する計量分析・予測の事例には事欠かないが、脱炭素化が迫る文明の一大転換の姿形を明らかにし、その意味と意義を解き明かす研究の前例は無きに等しい。2023年3月を目途に、本プログラムの研究成果を最終報告書としてまとめ上げ、国際高等研究所の誇るべき情報発信の一翼を担う所存である
活動報告
アニュアルレポート |
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