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第37回 けいはんな「エジソンの会」

開催概要

バイオサイエンスが切り拓く未来

講師
  • 竹内 昌治氏
    東京大学大学院 情報理工学系研究科 知能機械情報学専攻 教授
    神奈川県立産業技術総合研究所 人工細胞膜システムグループ グループリーダー
  • 川島 一公氏
    インテグリカルチャー株式会社 取締役CTO
開催日時 2021年11月19月(金) 14:00~17:30
開催場所 公益財団法人国際高等研究所
住所 〒619-0225 京都府木津川市木津川台9丁目3番地
概要  バイオサイエンスは、20世紀後半から展開された細胞融合技術や遺伝子組み換え技術などの開発以降、革新的な成長を遂げ、人類の生存に役立つ多くの可能性を秘めた、今もっとも注目されている研究分野であり、私たちが直面している「食糧危機」、「エネルギー問題」、「地球環境問題」、「食の安全」などの社会課題を解決の方向に導く壮大で広範な研究領域です。
 第37回会合では、「Think Hybrid」を提唱し、バイオサイエンス領域を牽引して世界からもっとも注目を集めている竹内昌治氏より、分野を超えた新たな領域での新しいモノ創りについてご説明頂きます。また、細胞農業の先駆的ベンチャー企業であり、世界のニュープロテイン市場のトップランナーである川島一公氏より、細胞の画期的な培養技術を通した食の展望と未来における可能性についてご説明頂きます。
 バイオサイエンスの研究の最前線に触れていただき、持続可能な社会を議論することで、分野を超えた研究者・技術者、企業の様々な立場の皆様にも非常に興味深く、大いに参考にしていただけるものと期待しています。
配布資料
第37回「けいはんなエジソンの会」チラシ
PDF [792 KB]
川島 一公氏「培養細胞により世界を変える ~体を模倣した革新的培養技術~」
PDF [7 MB]
共催、後援、協力 【後援】 国立研究開発法人理化学研究所
     公益財団法人関西文化学術研究都市推進機構

タイムテーブル

13:30
受付開始
14:00-15:00
「バイオハイブリッドによる挑戦 ~ロボット、センサ、培養肉、人工細胞、マイクロ 流体デバイス~」竹内 昌治氏 
東京大学大学院 情報理工学系研究科 知能機械情報学専攻 教授
神奈川県立産業技術総合研究所 人工細胞膜システムグループ グループリーダー
15:10-16:10
「培養細胞により世界を変える ~体を模倣した革新的培養技術~」川島 一公氏
インテグリカルチャー株式会社 取締役CTO
16:20-17:30
インタラクティブ・セッションご登壇者(竹内昌治氏、川島一公氏)
上田 修功 エジソンの会スーパーバイザー
新型コロナウイルス感染拡大予防のため、今回は情報交換会を中止とさせていただきます。
※開催延期中の「人と機械の未来 ~ムーンショット型研究開発によるアプローチ~」については、 日程が決まり次第、別途ご案内いたします。

当日の様子

第37回会合は、「バイオサイエンスが切り拓く未来」というテーマで開催いたしました。
今回の会合を通じて、バイオサイエンスが生物と機械との融合により、分野を超えた新たなモノ造りを促し、新たな展開を図ることが可能であること、また細胞の画期的な培養技術を通して、細胞農業が人類の抱えている多くの課題を解決することが可能であり、食の展望と未来における可能性に繋がることが分かりました。
 お二人の先生方のお話をお聞き、また参加者との討議を通じて、研究者の物の見方や考え方、発想、着眼点が如何に重要であり、バイオサイエンスの領域が私たちの身近な生活と如何に関わっているか、科学の側面だけで捉えるのではなく、人文学・社会科学の面からも検討しないといけないことを痛感しました。今後も大きな期待を持って、バイオサイエンスの研究動向に注目していきたいと思います。

 今回のエジソンの会はコロナ禍の影響で、2020年11月に開催した後、1年ぶりの開催となりました。施設内でのソーシャルディスタンスを保ちながら、情報交換会も割愛して開催しましたが、インタラクティブ・セッションでは、ご参加者と登壇者との熱心なやり取りが途切れることなく続きました。コロナ禍で昨今はオンラインのみで開催されるイベントも増えておりますが、リアルな空間での議論の重要性を再認識しました。今後も参加者の皆様からの関心が高く、注目度の高いテーマを取り上げて実施して行きます。
ご講演いただいた内容は下記の通りです。

「バイオハイブリッドによる挑戦 ~ロボット、センサ、培養肉、人工細胞、マイクロ 流体デバイス~」

竹内 昌治氏 
東京大学大学院 情報理工学系研究科 知能機械情報学専攻 教授
神奈川県立産業技術総合研究所 人工細胞膜システムグループ グループリーダー

竹内昌治先生

 生物は高いエネルギー効率を備え、ケミカルからメカニカルなエネルギーを産み出すことができ、自己修復能力を備えている。工学技術により生物と機械の融合を図ることで、これまで実現が難しかった様々な問題にブレイクスルーを産み出していけるのではないかと考える。
 そのためには、生物の分解最小要素である細胞を素子と考え、今までにない設計論やモノ造りの発想が必要となってくる。細胞を使ったハイブリッドなモノ造りの提案や機械化された部品の融合とその応用が期待されるが、そもそもそのモノ造り自体を行って良いのかという倫理的側面からの検討も必要であり、工学・医学・化学・人文学・社会科学など異分野を融合させた環境の中で取り組んでいかなければならない。 
 細胞を機械と融合させると、超高感度に物質を検出するセンサとしての働きに留まらず、リアクターとして機能させることもできる。創薬のプロセスでは動物実験をせずにチップの中で培養した人の組織の臨床前テストを行ったり、人工臓器や細胞治療のツールとして利用することなどが可能となる。また、アクチュエーターとしては、ロボットへの応用もできる。学習や記憶を司る神経細胞を利用することにより、プロセッサーとして機能させることも可能となる。
 アクチュエーターとしての活用として、今もっとも注目を集めているものに、培養肉がある。食肉は、「狩り」の時代(食肉1.0)から、長い歴史を経て「家畜」を育てる時代(食肉2.0)となった。現在、SDGsなどで取り上げられている人類にとっての大きな問題である、①食糧難 ②環境負荷 ③動物福祉 ④安全性 などの視点から、食肉3.0(自分たちで肉を作る時代)に移行して行かざるをえないのではないかと考えている。
 それらの問題を解決するため、世界に先駆けて、初の培養ステーキ肉を完成させた。ミンチ肉とは全く異なり、筋繊維がきっちりと配向された3次元構造で、リアルな食感と栄養分を備えたサルコメア構造の組織肉の研究である。
 食肉3.0では、温暖化、気候変動、感染症、食糧難、水不足など世界が抱える大きな課題を、培養肉を食べるだけで、問題を意識せずに解決していくことが可能となり、健康に良い、環境に良い、と工学者が理想とするモノ造りではあるが、新しい食文化を創る営みでもあり、社会に浸透していくためには、科学技術の社会受容性を議論していく必要がある。
 日本の和食はユネスコの無形文化遺産に指定されており、世界に誇る食の文化を持つ我が国でこそ、世界の培養肉の普及に貢献していけるのではないかと考えている。
 今後も、技術革新によりバイオサイエンスの進化を通して実現する生物と機械の様々な融合が新しいモノ造りに活かされ、我々の価値観の変化とともに社会の変化と新しい文化の創出の一翼を担えればと考える。

「培養細胞により世界を変える ~体を模倣した革新的培養技術~」

川島 一公氏
インテグリカルチャー株式会社 取締役CTO

川島一公氏

 世界のタンパク源の市場は2021年時点で200兆円超と巨大であり、人口増加に伴い年々大きく伸び続けると予想されている。特に肉食の増加は、今後1.5倍から2倍の需要が予測され、畜産は温室効果ガスの増加、水資源の枯渇等、環境負荷が高く、これまでとは異なった方法で肉を作るアプローチが世界のトレンドであり、培養肉の市場が注目を集めている。 
 今後培養肉は、味や触感で植物由来のプラントベースの肉よりもシェアが広がると思われるが、伝統的畜産はなくならないと考えており、20年後の未来の人々は、培養肉、植物肉、伝統的な肉からの選択可能な社会になるだろう。
 ここ数年で培養領域に世界中の投資マネーが流れ込んでおり、「細胞農業」という新たな定義が定められた。細胞農業では、単純に動物の細胞を取り出し、培養し、加工し、完成品としての肉ができるプロセスを経るが、一般の人にとっては、「気持ちが悪い」など、理解が不足している。
 目指すところは、抽出した細胞が未だ体内にいると勘違いさせる技術の開発であると考える。身体の中の仕組みがどうなっているのかを研究し、適切な栄養状態を作り、血の成分(血清成分・ホルモン成分)・細胞に命令を送る特別なタンパク質のバランス等、疑似的に適切な体内環境を作り出すCulNetシステムを構築した。適切な体内状態を作るために、装置の中で、身体の成長を促す臓器間相互作用と同様の環境に置き換え、栄養源を作ってしまうことで、培養に掛かるコストを大幅に抑えることが可能となる。
 CulNet内の環境では、複数のCell-Chipの組み合わせにより、自律的臓器間相互作用のコンビネーションの探索、血清成分の網羅分析、成長因子の探索、筋肉を増やすコンビネーションの注出などを行い、最長140日間カレントシステムでも生かすことが可能となった。
 2022年夏にはフォアグラの培養を上市する予定であり、CulNetに抽出したアヒル細胞と栄養素を入れるだけで、血清を一切使わずとも、血清と比べて大量に速いスピードで培養することが可能なことを実証した。味も本物のフォアグラと比べて、異なったうま味があるとの評価も得ている。   CulNetの今後については、2023年には免疫系機能の実装、2025年には血を作る計画である。
 CulNetは、培養肉を作るのがゴールではなく、細胞を活かして機能させ続ける、BIO版のプラットフォームになることを目指しており、将来はグルコースとアミノ酸だけで細胞の機能を大いに活用できる時代が来ると考える。
 弊社は、CulNetを通して、細胞培養の価格破壊による食品の素材領域の変革に留まらず、プラスティック製品の代替等、自然に帰る細胞でできた製品を大量生産し、社会の変革に貢献していきたい。

[インタラクティブ・セッション]

 バイオサイエンスの領域での国際競争力とドライビングフォース、大量培養へのスケールアップと細胞密度の関係、細胞農業と畜産農家の将来、バイオ肉と食の安心・安全、人間拡張と倫理、研究への取り組みとパブリックアクセプタンス、iPS細胞の分化・癌化と細胞培養についての懸念、細胞の劣化と不老不死の可能性など、多岐にわたる視点に話が及びました。

  • インタラクティブ・セッションの様子
  • 会場討論風景
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